この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当・佐々木が、重陽にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。
9月に入りました。このコラムを書いている段階で台風が日本に徐々に接近しており、掲載の頃には列島を横断するとの予報が出ています。どうかくれぐれもお気をつけていただければと思います。
2024年9月1日コラム
とりあえずIPA
さて、あいかわらず酷暑が続いています。ただ、8月も半ばを過ぎてから関西辺りでは若干気温が下がったようにも感じます。ひところは最高気温40℃などと見たことのない数字が連日並んでいましたので、それに比べればというだけでまだまだ暑いことに変わりはありませんが…。皆様のお住いの辺りはいかがでしょうか。
こうも暑い日が続くと、やはりビールが欠かせません。最近はビールの種類が多種多様になって、日本内外のクラフトビールも比較的簡単に手に入るようになりました。なかでも人気なのは、「インディアン・ペール・エール」つまりIPAと呼ばれるクラフトビールのようです。苦みとコクの深さが特徴のIPAは、喉元を流れ下ると一瞬にして暑さを忘れさせてくれる力強さが魅力です。
ただ、個人的な話ですが、IPAを飲み続けていると、どういうわけか飲み飽きしてくる場合があります。かつてイギリス人が植民地としていたインドにビールを運ぶために、防腐効果のあるホップを大量に使って仕込んだのがIPAの始まりだといわれます。こうした独自の作り方によって他にはない力強い味わいが生み出されるわけですが、その一方で強烈な苦みが段々と舌の上に蓄積してくると、手元のグラスを重く感じてしまうのかもしれません。
そういうときは、途中でラガー系のあっさりとしたビールを挟むと、清水を飲み干したような、ほっと人心地つく感覚になります。とはいえ、またしばらくして、IPAに手が伸びるという繰り返しになるのですが。
ビールばかりだとお腹もいっぱいになってしまいますので、なにか替わりとなる最初の一杯に相応しい飲み物はないかと探していましたら、ポルトガルのワインに面白いものがありました。
ポルトガル語で「ヴィーニョ・ヴェルデ」と呼ばれるワインで、直訳すれば「緑のワイン」といったところでしょうか。とはいえ、色合いが緑色をしているというわけではありません。実際、ヴィーニョ・ヴェルデには赤・白・ロゼと揃っています。この場合のヴェルデとは、熟していないという意味合いです。つまり、完熟前のブドウを使って作ったワインだということになります。
熟していないブドウは糖度が高くありませんので、これを用いたワインはアルコール度数が比較的低くなります。ですので、ヴィーニョ・ヴェルデはたいへん飲みやすいワインです。とりわけその白は、フレッシュかつクリアな味わいで、なおかつ微発砲もしていますので、まさにワイン替わりに最適な飲み物といえます。それもあってか、最近では日本のワインショップでもよく見かけるようになりました。
ヴィーニョ・ヴェルデのふるさとは、ポルトガルの北西部を流れるミーニョ川周辺一帯です。北をスペインのガリシア地方に接し、西を大西洋に面しており、夏は冷涼、冬は温暖な気候で、ポルトガルを代表するワイン産地となっています。
もともとポルトガルにはブドウの固有種が多くあり、ヴィーニョ・ヴェルデにも使われています。たとえば、白にはロウレイロやアリントやトラジャドゥロといった品種のものがあり、カジュアルに飲めるものはこれらをブレンドした場合が多いようです。
ところで、近年の地球温暖化でブドウが熟しすぎて、ワインのアルコール度数が高くなる傾向が多くのワイン産地で見られるといいます。そうしたなかで、ヴィーニョ・ヴェルデはこれからのワインにとってひとつの方向性を示すものといえるのかもしれません。
リースリングとぺトロール香
ヴィーニョ・ヴェルデは昔からあるワインですが、近年注目株となり、これからも人気を高めていくだろうと思います。とくに蒸し暑い夏には、もってこいの白ワインとして重宝され続けるに違いありません。
わたしにとって、これまで夏のお供であった白ワインといえば、ドイツやフランス・アルザス地方の特産であるリースリングでした。マスカットや花の香りとともに、ぺトロールつまり重油の香りがほのかに立ち上がってくるのが、このワインの最大の特徴と言えるでしょうか。
よく考えれば、ワインに重油の香りというのは不思議な取り合わせなのですが、よく冷えたリースリングのぺトロール香を嗅ぐと、今年も夏が来たなという気になったものです。
実は最近知ったのですが、このぺトロール香はリースリングに必ずしもあるものではなく、とりわけ熟成の進んでいない若いワインにある場合は、欠陥の可能性が高いというのです(https://www.winereport.jp/archive/1620/)。
どうやら、熟していないブドウを使うなどした場合に、若いワインにぺトロール香が出るようです。ただし一方で、熟成の進んだワインにぺトロール香が出るのは欠陥ではなく、通常のことだそうです。
要するに、健全に育てて収穫時期も適切なブドウを使った場合の若いワインにはぺトロール香がない以上、その香りがあるものは問題だとする見方が、とくに現地のオーガニックワインの生産者たちの認識になっているようです。
いずれにしても、どんなブドウ品種にもそれぞれに相応しい収穫時期があり、単に早穫りすれば良いというのではないわけです。
やっぱりワインは奥深いものですね。
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