『鬼滅の刃』とコーヒー

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当佐々木が、和・ティータイム・歴史にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

これまで経験したことのない事態が日常となり、いまだ混乱のただなかにある令和2年も、早いもので残すところ僅かとなりました。

2020年12月1日コラム改

国内外で大きな出来事がいろいろと重なり、わたしたちの日々の生活も急速に変化した年になりました。どこか平成の時代も遠くになってしまったような気がするのは私だけでしょうか。

ところで、歴史好きのなかには、明治・大正・昭和・平成のそれぞれの個性を比較して、昭和は明治に、平成は大正に似ている、という指摘をする人もいます。

たしかに、国威の発揚を前面に押し出していくところは、明治と昭和の共通した性格であった一方で、そうしたアグレッシブな時代とは明確に対照的なのが大正と平成だったといえます。

維新の熱狂も過去のものとなり、工業化が進んでサラリーマン層が登場、女性の社会進出も始まって本格的な大衆社会が発現した大正時代は、まさに現代と地続きの時代です。

欧米の生活様式が急速に浸透していったのも大正のころでした。服装はもちろん、食文化も西洋化されていき、その様子は当時のカフェ文化に色濃く表れます。各地に開かれたコーヒー店は、それまで日本人に馴染みのないコーヒーや紅茶などの飲食物を提供することを通じて、大衆と西洋文化を結びつける重要な役割を担ったのです。

さて、近頃は大正時代がブームだと聞きます。大正と平成の近さを考えると、とても興味深い現象です。過去のものとなった平成をどこか懐かしむ人々の共感が、よく似た時代に無意識的に向けられたようにも感じられます。

わたしもブームに乗っかって、いま話題沸騰の『鬼滅の刃』(アニメ版)を観てみました。大正時代の雰囲気がとてもうまく描かれていて、その世界観にすぐに引き込まれます。

よくみると、浅草のシーンで「凌雲閣」らしき建物が描かれているので、大正12年(1923年)以前の時代設定のようです。凌雲閣は明治23年(1890年)に建設され、12階建て・高さ52mを誇る当時日本でもっとも高い建築物として、東京のシンボル的な存在でしたが、1923年の関東大震災で崩壊し、その後再建されることはありませんでした。

劇中の人々の装いや様子からも、まだ大正の世となって間もない時期のようです。主人公・竈門炭次郎たちの同時代人はコーヒーや紅茶を飲むようになる第1世代にあたるといえるかもしれません。

令和の時代がこれからどのように評価されることになるのかわかりませんが、奇しくも100年前の大正前期は世界的なパンデミックに見舞われた時代でもありました。未曽有の困難のなかでも、コーヒーや紅茶を喫する新しい大衆文化が生まれ、しっかりと息づいて現代にも受け継がれてきたのです。

例年にも増して今年は自宅でコーヒーや紅茶を愉しむ機会が増えましたが、年末は『鬼滅の刃』の原作を読みながらカップを傾けてじっくりと大正時代に想いを馳せてみたいです。

※ ご覧の時期によって価格等ご案内の情報が異なる場合がございます。最新の情報は各店舗にてご確認ください。

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「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。