「触れる」が旅の出発点

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当松田が、バカラ・グラス・端午の節句にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

私が最近1番やめたいと思っている思考のクセです。何か気になるものに触れる前に、分かった気になったり、知った気になったりするのは勿体ない。そんな日々のなか、ふと手に取った雑誌に「あなたには、信頼できる店がありますか?」という言葉が。

触れる前に、頭で想像して、体験した気になること。

そんなことって、ありませんか?

例えばそれは、「店主やそこに来るお客さんとの話が弾む店」「何も買わずに帰ることも多いけど、唯一無二の出合いがあった店」などと書かれています。なんでもネットで手に入る時代、リアルショッピングの醍醐味は、店先で見て、触って、その背景を聞いて、“欲しいもの”が五感を通じてその場で生まれる瞬間なのかもしれないと。

そして、信頼できる店の探し方は、信頼できる店主といの出会いにあると。今こそ、目利きの店主の頭の中を体現した、リアルショップの愉しみを体感しようと。この一説に刺激を受け、近隣のアートギャラリーで開催中の個展へ足を運びました。

このギャラリー、広告代理店や出版社などで働いていたオーナーたちが、自らの目利きでアップカミングなアーティストをキュレーションメディアのように紹介する、というコンセプトで運営されています。

私がふらっと立ち寄ったタイミングでは、「キオクノタビ」というテーマで絵画の個展が開催されていました。まずは作り手の想いからご紹介。

<テーマ「キオクノタビ」について>

「なんとなく、忘れてはいけないことってたくさんある気がします。今まで必死に前を向いて駆け抜けてきた私の人生の中で、もしかしたら置いてきてしまった大切な記憶があるのかもしれないと思ったんです。

人は自分にとって楽しかったことや嬉しかったことは鮮明に覚えていて、辛かったことは忘れたいと思っても忘れられなかったり…

その真ん中の記憶は置き去りにして、毎日が進んでいるのかもしれません。その真ん中も含めて記憶の中に忘れてはいけないことがたくさんある様な気がします。

自分らしさとは、今までの経験や人との出会いやつながり、見てきた風景、環境などによって成り立っている気がします。

自分がこれから、何処に進みたいのかが、今までの記憶を遡ることによって何か手掛かりとなるモノが見つかるのかもしれないと思い、今年のテーマにしました。

ぜひ、皆さんも自分に置き換えて記憶を遡っていただき、自分らしく人生を歩いて行くための手掛かりを見つけていただけたら幸いです。」 (萩原美里個展「キオクノタビ」 作品テーマより)

作品は水彩画と木炭による小さなドローイング。そして、作品の横では、タイトルに加えて、詩や小説の一節が絵と寄り添い一緒に紹介されています。作者自身が、言葉の強さを日頃から感じ大事にしていることから生まれた展示スタイルだそう。絵は視覚から入り、言葉はさらに心の奥へ刻まれる感覚で、絵と言葉の融合が新鮮でした。

いくつか、心に残った作品も紹介させてください。

タイトル「旅

絵:奥には大きな山、手前には湖が。空には雲が浮かび、霧がかかるなか、たくさんの鳥が飛んでいる。

言葉:「旅を思い出すことは、人生を二度楽しむこと。」

タイトル「旅の途中

絵:奥には雪が積もった山、手前には生い茂る森林、曇り空から漏れる淡い光、たくさんの鳥

言葉:「人が旅をするのは到着するためではなく、旅をするためである。」

タイトル「自然の中で時間を過ごすこと

絵:奥には雪山と黒にも見える森林、手間には大草原に花が咲き、その横には湖、空からは光がさしている

言葉:「全てのことを忘れ、自分の魂を見つけるために、私は森の中へ入って行く。」

タイトル「長い旅

絵:電車の車窓、車窓からの景色、固定席に付いている小さなテーブル、お気に入りのマグカップ

言葉:「幸せとは旅の仕方であって、行き先のことではない。」

タイトル「大切なこと

絵:白いキャンパスの真ん中に、温もりが感じられる手が描かれ、雛鳥をそっと包み込むように持っている

言葉:「断片的に頭の中に残る記憶、モノ、色、輪郭、気温、匂い。」

観賞後、たまたま作者さんがいたので話を聞くと…。「人生は旅であり、記憶を通じて人は2回目の旅に出かけられる。1日を見つめ、1日を人生として捉えるならば、朝起きるとは誕生の瞬間であり、夜寝るとは死ぬ瞬間にもなる」と仰っていて、日々を見つめる大切さを痛感させられました。

鑑賞中は、自分の体験と照らし合わせながら、まさにキオクノタビに出かけていました。それも、無彩色中心に描かれた絵が、想像力を引き立ててくれたから。鑑賞者が自由に色を足したり、天気を足したりできるように、あえて色をハッキリさせていないとのこと。

だから、同じ絵を見ても、ある人は「晴れていそう」と言うし、ある人は「雨が降りそう」と感想を述べたって良い。自分の考え方や視点で、自由に鑑賞して良いのだと芸術の味わい方を教えてくれた気がします。

話を聞いてから改めて絵を眺めてみると、鳥は小さい頃に憧れた自由そのもの。誰もが「鳥のように自由に飛べたら」と子どもの頃に思っていたはず。その気持ちを大人になった今、発見できたことが私は嬉しかったです。

皆さんもテーブルウェアなら、好きなブランドやジャンルがあると思います。

自分の好みが分かってくれば、リアルショッピングに行く機会も減り、ネットで完結するという方も多いでしょう。だからこそ、冒頭の一文に戻り、「みなさまには、信頼できる店がありますか?」とお聞きしてみたいな・・と。五感で何かに触れる体験を通して、新しい考え方や視点でテーブルウェアの魅力を再発見できるかもしれません。ル・ノーブルもそんな体験がかなう場所でありたいと思います。

今回は私がひとりのユーザーの視点で「触れて、手に取り、使ってみたい」そんなアイテムをピックアップしてみました。

クリスタルと言えばバカラを思い出すほど、言わずとも有名なフランスのメーカーです。ウイスキー好きの私が、一目見た瞬間に恋に落ち、手に取ってみたいと思わされたグラスです。フォルムやカッティングの美しさ、手触りや口当たり、ウイスキーを注ぐときの音はどんなだろうか・・一級品は何が違うのか、その違いを日常に取り入れてみたい!とイメージさせてくれたグラスの一つです。

電子レンジ可という「現代的な機能」と、なんとも懐かしい「レトロモダンな佇まい」が魅力。無駄を削ぎ落とし、洗練された美しさが漂う本来の“用の美”とはまた異なる、今の時代の“用と美の両立”を感じたアイテムです。

※ ご覧の時期によって価格等ご案内の情報が異なる場合がございます。最新の情報は各店舗にてご確認ください。

ABOUTこの記事をかいた人

「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。