錬金術

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時の担当・広瀬が、マイセン・端午の節句にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

ヨーロッパ初の白磁器を開発に成功したマイセン。その開発者が錬金術師(ヨハン・フリードリッヒ・ベトガー)だったというのをご存知の方も多いはず。

その当時17世紀末、科学的発見が目覚しく進んだ時期であったのにも関わらず、「賢者の石(黄金成形だけでなく、不老不死、人間の霊性の完成などすべても不完全なものを完全にさせる錬金術師の万能の石)」理論への信頼は薄らいではいませんでした。近代科学理論の父といわれるようなあの万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートン候も錬金術に魅せられた一人です。その神秘の錬金術の世界を少し覗いて見たいと思います。

<錬金術(Alchemy)とは>錬金術とは、そもそも化学的手段を用いて卑金属(硫黄や水銀)から貴金属(特に金)を精錬しようとする試みのこと。そこに、哲学的思想が融合され、金属に限らず様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成させようとしたものなのです。

一般によく知られた錬金術とは、物質をより完全な存在に変える「賢者の石」を創る技術のこと指します。この賢者の石を用いれば、卑金属を黄金に変える事はもちろん、人体を永遠不滅なものとし、不老不死を得る事ができるとされ、それ故、錬金術はが世界を創造した過程を再現するという壮大なロマンに突き動かされたのです。

つまり、錬金術とは、金属製錬術に哲学的思想が加わり、その技術解析のなかで発展してきた技術であり、その発達の過程において、ベトガーの白磁器の開発や、現在の化学薬品の発見など大いなる副産物を生み出したのです。

ここで、ベドガーという錬金術師が白磁器の開発に携わった過程を少々お話しましょう。

ベドガーが生きた17世紀末は科学的発見が目覚しく進んだ時期であったのにも関わらず、「賢者の石」理論は人々の間で強く信じられていました。祖父に金細工師、父に貨幣鋳造師をもつベドガーは青年期に金属の製錬、分析、計量、試金技術を習い覚え、同時に輝く金塊を扱う種々の秘術も修得していました。ベドガーが銀貨数枚を純金変えたという噂に注目した、ザクセン候アウグスト強王は同じような白磁の陶器を生み出すために、化学に精通している錬金術師ベドガーに目をつけました。そして自らの夢の実現と国の威信をかけた<白い金>すなわち白磁の開発に彼を幽閉してまで専念させたのでした。ベドガーは幾多の実験を重ね、<ベドガー炻器>、<ベドガー磁器>の成功に続いて、ヨーロッパ製硬質磁器の原型<マイセン磁器>が誕生したのです。

数々の苦悩を乗り越えベドガーは歴史に名を残すヨーロッパの名陶を生み出すことになるのですが、長年の拘禁生活によるストレスや過度の飲酒、そして有害物質を用いた化学実験のため体調を崩し、37歳という若さでその生涯を閉じたのです。

現代では、当然と思われることでしょうが、どのように頑張っても卑金属を金属を黄金に変化させることは不可能であり、錬金術師は目的を達成することはできませんでしたが、結果的に見ると錬術師たちは思いもよらない形で後の世に大いに貢献することとなりました。

すべてのものは完璧ではないから、「完璧」「完全」なものに憧れ、それに惜しみない努力をする。だから神様は私たちを「完璧」には創られなかったのでしょうか?「不完全」であることの意味、もう一度考え直すべきなのかもしれませんね。

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「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。