夏に愉しむ冷酒の悦び

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当佐々木が、グラス・ワイングラス・七夕にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

とはいえ、どこにも外出せず、ほどよく冷房の効いた部屋のなかで、まったりと過ごすのも夏ならではの愉しみと言えます。

7月に入りました。いよいよ夏本番ですね。

海水浴に山登り、遊園地に水族館…。いろいろなレジャーが楽しみな季節です。

お酒の好きな方なら、そこにキリリと冷えた日本酒でもあれば、〝言うことなし〟ではないでしょうか。

そんな日本酒好きには、毎年7月1日はちょっと特別な日かもしれません。

実は、7月は日本酒の製造年度の区切りに当たります。

近頃は日本酒の酒瓶に貼られたラベルに、「BY」という表記がされることがよくあります。これは「Brewery Year」つまり醸造年度を意味する頭文字を示しています。

たとえば、「27BY」であれば、平成27年7月1日から平成28年6月30日までのあいだに醸造されたお酒ということになります。

普通、年度の区切りと言えば、4月1日から3月31日なのに、どうして日本酒はイレギュラーな年度を用いるのか。

結論から言えば、単に税金の問題なんです。

だいたい伝統的に日本酒は、10月頃から作り始められます。11月頃には新酒が出回るようになりますが、仕込みの最盛期は気温の低い2月頃です。

とはいえ明治時代には、5月頃まで酒造りをする場合もでてくるようになりました。

ですので、通常の年度を用いると、4月1日以降に作られたお酒は、次年度の会計に持ち越すことになってしまいます。酒税は、製造量に基づいて算出することになりますので、特別な会計年度を設定することが必要になったわけです。

こうして明治時代に定められた日本酒の製造年度は、10月1日から9月30日と定められたのでした。

ところがその後、収穫の早い酒米、つまり早生米が流通するようになってからは、10月よりも早くから酒造りが行われる場合がでてきました。

それゆえ、第二次世界大戦後のことですが、1965年から日本酒の醸造年度は、7月1日を区切りとするようになったのです。

いまでは酒造りも機械化が進んで、季節に関係なく醸造する、いわゆる「四季醸造」が行われることもありますので(いま人気の銘柄である山口・岩国の旭酒造「獺祭」も四季醸造のお酒です)、醸造年度は、より税制上の取り決めに過ぎなくなっていると言えるかもしれません。

ただ、醸造年度が明記されていることで、実際にお酒を飲む側のメリットもあります。たとえば、〝熟成度〟の目安になるということもそのひとつです。当然、日本酒は醸されてから時間が経つごとに熟成が進みます。ですので、醸造された年度がはっきりと確認できれば、自分好みの熟成具合を求めてあれこれ飲み比べる愉しみもでてくるわけです。

しかし、ここで疑問を持たれる方もいるかもしれません。

日本酒のラベルには必ず製造年月が記されているのだから、わざわざ「BY」表記にこだわる必要はないのではないか、と。

実は日本酒の場合、製造年月とは、瓶詰された年と月を意味します。ですので、たとえば、「27BY」であっても、平成29年12月に瓶詰めされれば、製造年月にはそのように記されるわけです。したがって、製造年月の表記だけでは、熟成具合の目安にはならないということです。

ところで、他のお酒と同様、日本酒も熟成具合によって味と香りが大きく変化していきますので、このごろでは、あえて長期間熟成させた「古酒」を商品として売り出している蔵元も多くあります。いわば日本酒の〝オールド〟といえるものです。綺麗な飴色で、濃厚な味と香りが特徴です。

実は、江戸時代まではこうした日本酒の古酒は高級酒として扱われていました。しかし、明治になってから、これも税制のあり方が大きく変わったために、蔵の中で熟成させる酒にも税金がかかるようになりました。それで古酒はほとんど市場に出回らなくなったとされます。

いまでは有り難いことに、蔵元の努力もあって日本酒の種類が多様化して、新酒でも古酒でも選ばす味わうことができる機会が増えました。

ブドウで造られたワインと同様、日本酒をワイングラスに注ぐと、香りや味が一層引き立つ場合があります。ご存知のように、ワイングラスにもいろいろな種類がありますので、お好みの日本酒との相性を試していくのも面白いと思います。ぜひお試しください。

ですが飲みすぎには、くれぐれもご注意を。

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「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。