この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当・佐々木が、クリスマス・歴史・夏にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。
このコラムを書きながら、ちょうどパリでおこなわれているオリンピックの開会式の模様をちらちらと横目で見ています。
2024年8月1日コラム
長いオリンピックの歴史でも前例のないという、スタジアムの外での開会式との触れ込みでしたので、どんなものになるのだろうと興味津々でしたが、いやはや驚きです。
選手団が船に乗ってセーヌ川のうえでパレードをなし、次々と入場するのと並行して、パリの歴史や文化を辿る巧みな演出には目を奪われました。
「ムーラン・ルージュ」のダンサーがフレンチカンカンを踊ったり、パリコレを思わすような演出はいかにもですが、やはり断頭後のマリー・アントワネットを彷彿とさせる何者かを登場させるあたりなど、全体的にかなり攻めた趣向です。
そうした際どい部分がありながらも、川と陸とをうまくつなげることで、さまざまな出来事が積み重なってきたパリの歴史ドラマを、自分も船上から眺めているような感覚に観る者を誘う一大スペクタクルに仕立てたといえます。
水上パレードのはじまり
日本ではそれほど水上パレードには馴染みがないかもしれませんが、古来より世界のいろいろな場所で開催されてきました。
たとえば、仮面舞踏会で有名なベネチア・カーニバルでも大運河に多くのゴンドラやボートが集まってパレードを繰り広げます。また、アメリカではカリフォルニアのニューポートでクリスマスにボートによるパレードが百年以上前から毎年開催され、多くの観光客を集めることで知られます。
おそらく世界で最古の水上パレードとなると、かつてイギリスのロンドンでおこなわれていたものではないかと思われます。
これは、世界有数の金融の中心地であるシティ・オブ・ロンドンの市長の就任式、つまり「ロード・メイヤーズ・ショー」において、新市長が国王に忠誠を誓うために市庁舎を出発して王立裁判所に赴く際、テムズ川を艀(はしけ)を使ってパレードしたものです。
このショー自体は13世紀にさかのぼるとても古い行事です。国王がロンドンの市民に対して毎年選挙で市長を選出する権利を与える代わりに、新市長は国王の承認を受けなければならないという取り決めが発端となっています。
陸に上がった「フロート」
その後、数百年を経て現在に至るまで市長選とその就任式の伝統は続けられてきました。
ちなみに、第二次世界大戦後にシティを含む大ロンドンが行政区として設置されたことで、同市長は名誉職としての位置づけになっています。
とはいえ、いまも国王はシティに入るには同市長の許可を得る必要があるなど、伝統の片鱗が脈々と受け継がれています。また、パレードも水上から陸上へと移りましたが、ロンドンの毎年の風物詩となっていることに代わりはありません。
ところで、有名なリオのカーニバルのように、陸上のパレードでは飾り立てた山車がお祭りを盛り上げることがよくあります。この山車のことを「フロート」と言いますが、なぜ日本語に訳せば「浮き」という意味で呼ばれているのかが以前から不思議でした。
これがどうやら、「ロード・メイヤーズ・ショー」と深く関わっているようなのです。つまり、かつてシティ・オブ・ロンドンの新市長就任式で用いられた艀がフロートの由来だというわけです。
あくまでひとつの説ですが、テムズ川の艀が世界中のフロートパレードへと発展していったかと思うと、なかなか興味深いものがあります。
先日、数年ぶりに祇園祭の山鉾巡行を観に行きましたが、こちらはもちろんロンドン由来のフロートとは何の関係もありません。
しかしながら、これらロンドンと京都のふたつの行事には深いところで相通ずるものがあるように思います。
その起源の古さと現在まで続いていることはもちろんですが、とりわけ、それぞれの都市の自治に関わる同業者集団、つまりロンドンではギルド、京都では町衆が主な担い手となっている点は、とりわけ興味深いところです。
しかも、テムズ川の艀が他の地域のカーニバルにおける山車へと発展していった一方で、祇園祭の山鉾も日本各地の祭りに影響を与え、それぞれの地域の山車を生み出すことになりました。
ロンドンと京都という、まったく隔絶した都市において民衆の力によって育まれてきたパレードが時空を超えて受け継がれ、いまも観る人に感銘を与えているということはとても稀有なことです。
パレードには、どこかに民衆の活力を呼び覚ます機能が備わっているのかもしれません。山鉾巡行とパリの水上パレードを観ながら、そんなことを感じました。
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