工芸と器の歴史

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当松田が、歴史・端午の節句にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

私の場合は、行きつけの美容室で担当スタイリストさんと話しているときに思いつくことが多いです。その方は1970年代・1980年代のアメリカンカルチャーが好きで、最近はもっぱらそのルーツを辿ることにハマっているそう。

暮らしを豊かにするヒントは、やはり日常に潜んでいるものですね。

この前も何気ない世間話をしているなか、「昔、よく行っていた古着屋の入荷情報を見て、久しぶりに遊びに行ってみた」と話がありました。なんでも古着屋の店主と、現代のファッションアイコンの元となったオリジンのアイテムはどれか、そこからどういう変遷を経て今の形に至ったのかなど、ファッションのルーツの話題で盛り上がったそう。

確かに、目の前にあるアイテムを「なんかいいな」と気に入ったとき、なぜ気に入ったのかを紐解くには、ルーツを知っているかどうかが大きく影響していそう。きっとこれは、ファッションだけではなく、器でも同じ。そう思い、器と、切っても切り離せない工芸の歴史を辿ることにしました。

そもそも工芸とは、生活用具に美的効果を備えた物品やその製作の総称を意味するもの。彫刻や絵画とは異なり、応用芸術の一種とみなされています。材料によって陶磁のほか、金工、漆工、木工、竹工、ガラスなど多くの種類に分けられます。

また、工芸の中でも、「伝統工芸」「美術工芸」「民藝」「生活工芸」などいくつかのカテゴリーがあります。

伝統工芸とは、「伝統的な技法で作られる工芸品」と広い意味で使用され、国や県が指定する条件をクリアすると「伝統的工芸品」に認定されます。

次に、美術工芸とは、美術的・鑑賞的な用途で作られた芸術作品や伝統工芸品、骨董品のこと。

そして、民藝は「民衆的工芸品」という考え方から生まれた言葉。かの柳宗悦が、日常的な庶民の生活道具に「用の美」をはじめ「健康の美」「自由の美」など多彩な美を見出して提唱した概念ともいえるでしょう。こうした日常的な暮らしの中で使われる道具としての工芸品を、生活工芸と呼ぶこともあります。

これら工芸の歴史は、1900年頃から30年くらいの周期で変化してきています。それはまさに、日本の作家たちが切り開いてきた“暮らしのアートの歴史”。

そのきっかけは、明治時代に西洋から美術(ファインアート)をはじめ、様々な文化が入ってきた明治維新。1900年前後からは、美術が町人文化に取り込まれるようになりました。

1950年代くらいからは、日本独自の工芸を生み出そうという機運が生まれ、西洋の美術工芸に対するカウンターとしての工芸が発展します。

続く60~80年代は、工芸が教養・文化のアイコンとなった時代。美術鑑賞的なものが主流であり、百貨店や画廊で展覧会を開くような有名作家が創り出す日常とは切り離された美術工芸が主役となりました。

そして、バブル経済崩壊後の90年代から現代にかけて、日常で使う器に着目した「生活工芸」という革命の時代へ突入します。自分たちの足元、まさに暮らしを見つめながら、見たり触ったりする鑑賞的な美術工芸から、日常生活で使う道具としての生活工芸へと移り変わっていくのです。

これまでの既存の工芸の中には自分たちの使いたいものがないと感じた作家たちが、自分たちで作ろうという発想でモノづくりを始め、多様化してきたこの30年。そこには、作り手の目線だけではなく、使い手の目線が含まれています。

だからこそ、「生活工芸」と呼ばれる日本の器には、双方向性の面白さがあります。作り手が一方的に器を受け手に提供するのではなく、“使い手がそれをどのように使いこなしていくか”により変化する面白さ。窯から出て完成なのではなく、使い手がその器を選んで、料理を盛って、手持ちの他の器と組み合わせながら使い込むことによって生きてくる器の魅力こそ、生活工芸の真髄でしょう。

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「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。