この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当・佐々木が、コーヒーカップ・端午の節句にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。
このところの世界情勢などを反映して、さまざまなモノの値上げラッシュが止まりません。コーヒーのような嗜好品も例外ではなく、すでに去年から豆の仕入れ価格の大幅な高騰が続いています。
2022年5月1日コラム
直接的には、世界最大のコーヒー産地であるブラジルでの記録的な不作が大きく影響したようです。大規模な霜の害が発生し、さらにその直前には干ばつにもさらされるなど、異常気象が頻発したことで、広大な地域でコーヒーの木が深刻なダメージを受けてしまっているとみられます。
豆の不作に燃料や資材コストなどの上昇がくわわり、今年3月にも日本のコーヒー大手がそろって値上げを発表しました。世のコーヒー好きにとっては厳しい状況が今後かなり長く続きそうな予感です。
そうなると、いままで以上に一杯のコーヒーをいかに美味しく愉しく頂くかということが、大切になってくるように思います。
コーヒーとカップの相性
そこでまず手近にできることといえば、やはりコーヒーカップからでしょうか。いつものコーヒーでも、器を変えるだけで一瞬にして雰囲気も変われば、味も香りもたしかに変わります。
また、ワインとワイングラスの関係とも似ていますが、コーヒーの種類や焙煎度に合わせてコーヒーカップを選んでみれば、その一杯をよりじっくりと味わえることはうけあいです。
たとえば、浅煎りの豆であれば、酸味をしっかりと感じるために、ティーカップのような口が広めで薄手のものがよいといわれます。人間は酸味を舌の側面でとらえるので、このような形状のカップが適しているようです。
逆に、苦みは舌の奥側でとらえるため、深煎りの豆のように苦みのあるものは、口が狭く若干厚手のカップがよろしいようです。そのほかにも、コーヒーにミルクをいれずにブラックで飲む場合は、色合いを愉しむために白磁のカップがよいなど、最適な組み合わせがいろいろとあるのが面白いところです。
このように器だけでもたいへん奥行きがあってどんどんと深みにはまっていくのが、コーヒーの醍醐味でもあるわけですが、ここからさらに一歩踏みだすと、愉しくはあれど二度とは引き返すことのできない道行にもなっていきます。
ここは珈琲地獄何丁目?
ところで、コーヒーの香りには、カップから立ち上がる香り、口に含んで鼻に抜ける香りのほかに、豆を挽いたときに生まれる香りの三種類あるといわれます。
粉の状態ではなく、焙煎された豆のままを買って、自分で挽いたときに部屋中に立ち込める鮮烈な香りは、ほかにはない独特なものです。コーヒーはこのときの香りが一番好きだという方もけっこういらっしゃるのではないでしょうか。
挽き方にこだわりだすと、風味を損なう摩擦熱をいかに発生させないかとか、雑味の原因となる微粉をいかに少なくするかとか、いろいろな難題が湧いてきて、手挽きのなかでも石臼がベストだとか、いや毎回手動はたいへんだからどこそこの電動がよろしいとか、なかには好みの挽き具合のために魔改造に手を染める者もでるなど、コーヒー一杯にたどり着くまでに無間の狭間に陥ることになります。
そこをなんとか抜け出すと、今度は抽出です。ネルドリップなのかペーパードリップなのか、それぞれの素材のうち最適なものはなにか。あるいはステンレスやセラミック製はどうか。もちろん、使用するポットのことも忘れてはなりません。さらに、お湯の温度や量のほか、注ぎ方、抽出するまでにかかる時間など、技術問題も待ち構えます。もちろんハンドドリップ以外の抽出法もさまざまで、コーヒーとの組み合わせによって千変万化する次第です。
四番目の香り
こうなってくると、コーヒーをめぐる愉悦の極楽なのか、はたまた艱難辛苦の地獄の旅路なのか、よくわかりませんが、最終的に凝り性が行き着く先は、焙煎しかありません。コーヒーは生豆の品質と焙煎具合でほぼ良し悪しが決まるといわれるくらいですから、いかに焙煎するかについては、鰻のかば焼きのように答えのない一生をかけた修行となります。
コーヒー豆を焼くこと自体は、フライパンや手網があれば、だれでもできますので、気軽なものではあります。ですが、煎れば生豆の薄皮が剥がれて盛大にキッチン中に飛び散るわ、フライパンを振り続けるのもさすがにしんどくなるわで、小型の電動ロースターが欲しいナ、となると、そもそもコーヒー豆の値上げを心配するどころではないコストが発生してしまうことになるわけです。
ただ、ある程度本格的な自家焙煎でなければ体験できないこともあって、そのひとつは焼きが進むにつれて漂う香りの変化かと思います。豆の種類などによっても香りに違いがでることもあるようで、あくまで個人的な経験ですが、アラビカ種以外のかなり珍しい豆を煎ったさい、バラのような香りが立ち込めたことにはいささか驚かされました。
こうしてみると、焙煎時の香りは、コーヒーの第四番目の香りのようにも思われるのです。
2050年のコーヒー
これで珈琲地獄(?)もひとめぐりとなって、ありがたい功徳も積めそうなところですが、気になるのはこのまま世界規模の気候変動が進めば、2050年までにはコーヒーの栽培面積が地球上で半減するとの予測があることです。いわゆる「2050年問題」です。
今回のブラジルの件もありますので、2050年よりもはるか前にコーヒーが手の届かない希少品になってしまう可能性も捨てきれないかもしれません。これこそ本当の地獄といえます。
こうした事態を見越して、米国のベンチャー企業のなかには、コーヒー豆を使わないコーヒーの開発に乗りだしたところもでてきたと耳にします。驚くのは、ナツメヤシの実つまりデーツの種を用いるのだそうで、味も香りも実際のコーヒーにかなり近いとのことです。
個人的には、デーツ・コーヒーの味や香りはさることながら、そのデーツの産地によって焙煎時に立ち込める香気がどんな変化をするのかも、興味の尽きないところではあります。
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