「創」の時代

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当佐々木が、七夕にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

このあいだ樹木希林さんの著書を読んでいると、はっとさせられることが書いてありました。

創造の「創」という漢字の意味は「キズ」のことで、モノを作ることはモノを壊して作ることなんだ、という指摘でした。

何事も新しいものを生み出すには、スクラップ・アンド・ビルドが必要だということを、漢字を生み出した先人たちははっきりと理解していたことに驚かされます。

翻って、世紀の発見や時代を超えて深く根付くような文化の誕生においては、大きな「創」つまり社会的な葛藤や困難というものがつきものなのかもしれません。

たとえば、物理学者アイザック・ニュートンの場合。

実は彼の万有引力の法則の発見や微積分法を確立などといった世界的な業績の数々は、17世紀半ばにロンドンで発生したペストの流行でケンブリッジ大学での生活を切り上げ、疎開生活をしていたときに生み出されたものでした。

また14世紀のイタリアでは、散文小説のはじまりとなった傑作『デカメロン』は伝染病を避けて巣篭りする男女が語らうという設定です。

一方日本でも、ノーベル賞作家川端康成の代表作『伊豆の踊子』は、川端が東京帝大生だったときにスペイン風邪の流行を避けて東京から伊豆へ疎開したときの体験がもとになっています。

ところで今日7月1日は祇園祭の初日です。今年は山鉾巡行が中止になり、寂しいばかりですが、京都ひいては日本を代表するこのお祭りは疫病の流行を鎮めるために始まったとされます。

こうして歴史を振り返ると、疫病が社会のシステムに甚大な影響を与え、人間の生き方を大きく変えてきたことがわかります。そうしたなかから新しい文化が力強く生まれ出てきたことは、救いであり、また大きな希望を感じさせます。

今回のコロナウィルスで世界は劇的に変化しました。実際に働き方ひとつとっても変化の只中にあります。困難な「創」を乗り越えて、新たな時代を切り開くような全く新しい価値観や文化が芽生えることを期待したいものです。

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「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。