梅雨の季節にさしかかり、鬱陶しい気候に気分も晴れない…で…

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のショップスタッフ三宅川が、アクセサリー・歴史・梅雨にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

梅雨の季節にさしかかり、鬱陶しい気候に気分も晴れない…でも家に閉じこもっていても余計に憂鬱になってしまうし…。そんな時皆さんはどう過ごされますか?

わたしは、まず出かけたくなる洋服を選びから始める事にしています。

お気に入りのブラウスでも今年買った靴でもいい、普段身に付けないアクセサリーでもOK。いつもとちょっと気分を変えると、自然と心が晴れやかになってきます。

普段身に着けないアクセサリーといってふと思い浮かぶのは『真珠』。女性の所有率NO.1と言っても過言ではない冠婚葬祭には欠かせないジュエリーのひとつ。世界最古の宝飾品とも言われ、その神秘的な光沢は時を超えて世界中の女性を魅了し続けています。

そこで、今回は6月の誕生石でもある『真珠』にまつわるいくつかのお話をさせていただきます。

わたしの部屋の飾り棚に立てかけられた、ヨーロッパ中世絵画展のカタログ。その表紙に収められた絵画に何故かしら心惹かれ、もう何年も部屋の中央に飾ったままになっています。

ルーマニア国立美術館が所蔵する「真珠を溶かすクレオパトラ」。この絵画はプリニウスの「博物誌」に収蔵された、エジプト最後の女王クレオパトラにまつわる有名なエピソードを主題に描かれたもので、彼女の気難しいまでの潔さと贅沢な暮らしが垣間見えるようです。

日ごと豪華な宴席を繰り返すクレオパトラに「この宴席にどれだけの費用を費やしているのか?」と尋ねるローマ皇帝アントニウス。

「こんなのは、大したものではありません。何ならあなたがこれまで見たことのないような贅沢な宴を催して差し上げましょう。」と、疑うアントニウスにクレオパトラは賭けを挑みます。

さて当日、催された宴席は一見いつもと変わらないものでした。それを揶揄するアントニウス。

その時、クレオパトラが目の前に置かれた酢の入ったグラスに、身に着けていた真珠の耳飾りを落とし入れたのです。出席者全員が固唾をのんで見守る中、酢の中で溶けていく真珠をためらうことなく一息で飲み干してしまいました。

この時クレオパトラが身に着けていた真珠は片方で3千万円ともいわれています。

こうなればアントニウスも負けを認めないわけにはいきません。

現在では日本の養殖真珠が世界の市場に広がり、わたしたちのような会社員でも手にすることができるようになりましたが、天然真珠しかなかった時代、それは希少価値の高い宝飾品として高額で取引されていました。20世紀前半、ニューヨークのある富豪がカルティエの天然真珠のネックレスを買うために5番街のビルを一軒手放したという逸話も残っているほどです。

それもそのはず当時真珠採りは素潜りで、ある記録によると3万5千個の貝を採りその中から21個の真珠を見つけることができましたが、そのうちジュエリーとしての価値があるものはたったの3個だったと記されています。

そんな中、世界中の女性にファッションとしての真珠を広め、新しい時代を作り出したのがあのココ・シャネルでした。今残る写真の中のシャネルは必ずと言っていいほど真珠のネックレスを身に着けています。

1962年に発表された「小さな黒いドレス」やその後シャネルの代表作となった「シャネルスーツ」は当時としては画期的なシンプルで潔いデザインですが、そこにエレガンスを添えるのが真珠の存在でした。

上流階級の女性たちを嫌ったシャネルは、「パーティーで他人が身に着けている宝石の価格で人を値踏みするような女性に本当のファッションは理解できない」と考え、そういう女性を「首の周りに小切手をつけているようなものだ」と批判していました。

「ファッションはお金でなく、センスで楽しむもの」というシャネルが作ったのがイミテーションジュエリー。「女性が美しくある為に、模造品でもいいので真珠を身に着けるべき」といったシャネルは、次々に美しいイミテーショジュエリーを発表し、上流階級の女性たちの間でも瞬く間に流行していきました。

皮肉屋のシャネルは、そんな女性たちを横目に時には自分だけが本物を着け、誰もそれが本物か偽物かわからないという状況を楽しんでいたそうです。

どんなドレスの時にも同じ物を身に着けているより、高価でなくてもその日の服装に合わせジュエリーも着替えていく、そんな楽しみ方を教えてくれたのがあの高級ブランドの生みの親だとは意外な気もしますね。

これからは、シャネルを見習い自信をもってイミテーションジュエリー楽しんでいこうと思います。

皆さまもぜひ。

おまけにもう一つ。

昨年5月、ロシアの女帝エカテリーナ2世が所有していた世界最大の淡水パールがオランダのオークションハウス「フェンデュハウス」で日本人に落札されたと話題になりました。

落札価格は32万ユーロ(約4100万円)。「眠れる獅子」と名付けられたこのパール、重さ120g直径7cm。首に飾るにも耳に飾るにも大きすぎ!と極めて庶民的な感想を持ってしまった自分がちょっと悲しくなりました。

ロシアの女帝エカテリーナ2世への贈り物として製作された

エカテリーナ宮殿のあるサンクトペテルブルクの名窯インペリアルポーセリン

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ABOUTこの記事をかいた人

「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。