鹿児島

この記事はに配信されたメールマガジン「ティータイム通信」コラムの復刻版です。当時のクリエイティブ担当阪本が、歴史・七夕にまつわるエッセイを綴りました。
※役職は配信当時のもので、現在は変更または退職している場合があります。

鹿児島。先日、念願叶ってようやく訪ねることができました。いいところですね。実はまだまだ訪れたい場所があって、消化不良なんです。

現地で出会った美味しいもの、砂風呂の話、初めて桜島が視界に飛び込んできた時の衝撃などいろいろとお話したいこともありますが、ここではあらためて「薩摩切子」のお話をしたいと思います。

薩摩切子の歴史は1846年、薩摩藩の27代当主であった島津斉興が薬品に使うガラスを製造したことにはじまり、28代 斉彬の頃には着色ガラスの研究が進み、紅・藍・紫・緑の発色に成功します。その中でも紅は非常に重宝がられたそうです。斉彬の「日本は諸外国のように強くて豊かな国にしなくてはならない」という信念のもと、薩摩切子も事業として発展することになりました。

しかしそのわずか数年後の事でした。1858年に薩英戦争による工場の崩壊と、明治維新の動乱に翻弄された薩摩切子の歴史は、わずか十数年という短い期間で姿を消してしまいました。

この影響は非常に大きなもので、当時の薩摩切子で現存するものはわずか十数点ともいわれており、残された資料も少なくとても希少なものとなりました。

こうして一度は断絶してしまった薩摩切子の歴史。今日現在は、当時の薩摩切子を模した「復元」と新しい「創作」として生産されています。こうして再び私たちの前に薩摩切子が登場する陰には職人さんの並々ならぬ努力があったのです。

当時の薩摩切子を復刻するプロジェクトが立ち上がります。薩摩切子にプライドと情熱を傾ける職人さんによるものです。残された資料も少ないなか、この止まった時計を動かすことに並々ならぬ情熱を注がれたのです。

鹿児島の観光本には必ず紹介されている「仙巌園」で知られる島津興行が、鹿児島県から薩摩切子の復興プロジェクトの要請を受けて薩摩ガラス工芸を立ち上げ、少ない文献を元に幻の色と言われた金赤をはじめ、薩摩切子に向き合いながら復元を行ってきました。また、それまでになかった二色被せの技法を開発するなど現在は薩摩切子の表現に新たな磨きをかけています。

こちらは仙巌園内のショップ「磯工芸館」に併設された場所に工房を構え、営業時間中は無料で見学をさせていただけるので、実際の制作過程に触れることができます。

また、大阪のガラス問屋であったカメイガラスが復刻のプロジェクトを仕掛け、当時職人の一人として参加された高橋太久美氏が率いる「たくみ工房」が現在、創作薩摩切子を制作し活動されています。

通常、切子のカットは、光で向こうから生地を透かしながら施すものです。もちろん正確な作業には腕前が必要ですが、実際にカット面が目に見える事で繊細なカットが可能になります。

しかしこれが、光を透かす事のない「黒い」生地ならどうでしょうか。アイデアこそはあったものの、難易度の高いこの黒い生地への挑戦はなかなか実現する事ができませんでした。

転機が起こったのは、2006年。JAPANブランド育成支援事業に鹿児島からは「薩摩切子」と「大島紬」の合同企画が選ばれ、インパクトあるものをと白羽の矢が立てられたのがこの薩摩黒切子だったのです。これに挑戦したのが、ル・ノーブルでもご紹介をさせていただいている「薩摩びいどろ工芸」でした。

黒生地は、カット技術の難易度から不可能といわれたもの。カットの際に、アタリで描いた線は一切見えない中、長年の経験と五感を総動員して取り組む息の詰まるような作業の連続です。そうして切られる黒切子は、現在でも切れる職人さんは少なく、カットにも時間がかかり大量生産はできません。値段にはその価値があります。

私たちが店頭でご紹介させて頂いている薩摩切子。今回その生まれた土地を訪問したことで一層の関心と愛着のようなものが湧いてきます。知れば知るほど味わい深いものですね。

鹿児島の焼酎は、薩摩切子でいただくとやはり美味しいもの。何より今回の旅で、土地のもので楽しみ、土地の空気や文化に触れる楽しさを教えてもらった気がします。みなさんも、旅先で再発見を。

薩摩切子は一度途絶えて再び復興されたものです。この復興プロジェクトは、ただならぬ努力と情熱が注がれたもの。本当に簡単なものではなかったはずです。これから未来、薩摩切子がどれだけの人を魅了していくのか、とても楽しみです。

薩摩びいどろ工芸アイテム一覧

※ ご覧の時期によって価格等ご案内の情報が異なる場合がございます。最新の情報は各店舗にてご確認ください。

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「器の愉しさを、もっと身近に」という想いを胸に、代々のスタッフがバトンを繋いできた食卓のエッセイ集です。ある時は 古典文学に想いを馳せ、ある時はイースターの食卓を飾り付ける。京都発、器が大好きな私たちの、ちょっとマニアックで愛おしい「器と文化愛」が詰まったコラムたち。数十年にわたり、メールマガジンを通じて数万人の器ファンに届けられたコラムを復刻しています。