“マイセンクリスタル”の工房は、東ドイツ・ザクセン州の州都であり観光都市としても有名なドレスデンより、車で約30分程の街「マイセン」にあります。街の中心地より少し離れた郊外に建っており、有名なマイセン磁器博物館とはエルベ川を隔て車でさらに約10分ほどの距離です。
マイセンクリスタルはクリスタルガラスを加飾するメーカーです。ガラス自体は作っておらず、ガラス窯もありません。数十人の社員は大多数が“エングレーヴィング”、“カッティング”の技術者であり、マイセンの街に暮らす人たちとのことでした。熟錬の技術者たちは、何十年も働き続けている人がほとんどで、500年以上に亘る“ザクセンガラス”の技術を今に受け継いでいます。
ザクセンガラスは、ヨーロッパで最も早く磁器の焼成に成功したドイツの科学者エーレンフリート・ヴァルター・チルンハウスにより生み出されました。彼の磁器焼成の研究を受け継いだヨハン・フリードリヒ・ベドガーがマイセン磁器を完成させた話が有名ですが、ドレスデンにガラス工場を創設したのもまたチルンハウスの業績です。
現在の「マイセンクリスタル社」は、初代が第二次世界大戦の終戦、そしてドレスデンの爆撃からわずか2年後の混乱の時代の1947年に父の工場を引き継ぎ、マイセンの街にガラスの仕上げ加工工場を設立したのが始まりでした。
しかし、東ドイツの政治的・社会的混乱は大変厳しくドイツではあまり業績が思わしくなく、設立より5年後の1952年に当時の東ドイツの企業としては異例のアメリカへの輸出を始めます。このことからも初代は大変研究熱心で、意欲的であったと思われます。その後、アジア、中東などにも輸出を広げることとなり、日本でも馴染み深いものとなりました。