「フランツ・コレクション」は2001年に台湾で誕生した若い磁器ブランドですが、ニューヨーク国際ギフト展でベストギフトコレクション大賞に輝く等、世界中で注目されています。その成功の裏には、創業者であるフランツ・チェン（陳立恒）氏の磁器に対する強い思いがありました。

欧米の高級ギフト業界に30年近くも携わったのち「東洋美学を伝えたい」という自己理想の基で2001年に「フランツ・コレクション」を立ち上げたチェン氏。
フランツ・コレクションというブランドを通して「大自然の魅力と東洋哲学の素晴らしさをより多くの人々に、東洋文明の象徴である陶磁器を介して感動を伝える」という彼の願いの実現に至るまでの道のりをご紹介いたします。

幼少の頃から西洋音楽に興味が有り、大学入学後にバンドを組んだ陳氏は、大学に通いながらも「艾迪亜（アイディア）」というライブハウスのマネージャーをしていました。艾迪亜は元々普通のレストランでしたが、陳氏のアドバイスによりバンド演奏を聴きながら食事もできるライブハウスに転身、以後艾迪亜の業績は日々上がっていきました。最終的に陳氏がライブハウスを購入、艾迪亜は台北の新しい遊び場となり、台湾の多くの芸能人がこの舞台で育っていきました。「艾迪亜」の成功は、その後の陳氏の文化創業産業の原型ともいえるでしょう。

60年代〜70年代に台湾の蝶標本や蝶に関するインテリアが欧米及び日本で人気を博しました。当時、彼の父が経営していた会社「海歌」は、蝶をモチーフにしたインテリアの輸出商社であり高い業績を挙げていました。稼業を手伝っていた陳氏は若干25歳ではあったものの、既ににライブハウスとこの貿易会社の2つを経営する青年実業家になっていました。

蝶の人気の低迷とともに家業の経営が曇り始めた或る日、陳氏のもとにMichael Gimplというドイツ人から手紙が送られてきました。大学でのドイツ語専攻の甲斐あって、手紙を読むことができた陳氏が早速連絡を取ってみたところ、ドイツのクリスマス小物の委託製造という大きなビジネスチャンスが訪れました。これは陳氏の貿易業における初の商売となりました。ドイツにおけるクリスマス商材は非常に特別なものであり、そこに大きな商機も潜んでいるということは当時の台湾では誰にも知りえないことでした。

陳氏は当時務めていた百年の歴史のある大手企業「中徳貿易公司」を辞め、同時期に辞めた黄鴻基、張福成と３人で「海歌」を引き継ぎました。クリスマス商品を扱うドイツの中堅企業“Ullman”がフランクフルトの展示会で展示・発表したシリーズ「Zemlin」が、陳氏に思わぬチャンスを与えました。Ullmanが展示していたサンプルと全く同じものをより低価格で作れるという条件で、同社はすぐに海歌と契約しました。他社の商品をコピ―して売るという商売は一見コストが低いようですが、商売としては受け身になってしまい、この従来のやり方から抜け出すために、陳氏はデザイナーを雇い始めOEM型（Original Equipment Manufacturing）からODM型（Original Design Manufacturing）へ、自社デザインを発信、生産するシステムに転身しました。今までになかった商品を作り出すことによって、ドイツのみならず、アメリカへも進出、海歌は一度解散し、陳氏が新たに立ち上げた「海暢」としてさらに発展していきます。

陳氏が世界中に認められている「ドイツ品質」を目指した結果、海暢は台湾国内で有名になりました。90年代に入りヨーロッパの人件費が高騰を受け、海外に安い人件費を求める会社が多くなってきた中で、「Kaiser」や「Goebell」のような百年の歴史を持つ企業が、安くて品質の良い海暢の商品に注目しました。ドイツのクリスマス商品を販売する会社「Kathe Wohlfahrt」と出会ったおかげで、陳氏はヨーロッパのクリスマス雑貨の市場にも詳しくなりました。一方、アメリカ進出も海暢発展計画の一つであり、アメリカのギフトブランド「Enesco」社と共同開発した「Cherished Teddies」という商品が爆発的人気を得たことをきっかけに、アメリカ及び世界に海暢の名を知らしめました。また、1993年のEnescoの年度大会で陳氏はStar賞を受賞しました。

伝統産業が、斜陽産業…「生き残る産業」であるという偏見から抜け出した海暢では、独自に会社組織に「円形管理法」を構築し、時代とともに「創新、承諾、実践、勉強、共有」という人の価値を尊重する理念を主張してきました。OEMにしてもODMにしても、自社ブランドを開発しない限り産業連鎖の底辺で受動的な存在になってしまう為、陳氏は独自デザインの開発に注力しました。デザイナーに対して、設計案の量を重視することと、品質を重視することを求め、彼らの表現力を最大限に引き出し、作品に独自性を発揮できるような組織作りを行いました。

2001年、「FRANZ」をアメリカで創立し、これまでの台北と深センの工場以外に、欧米人にも昔から知られ、千年以上の製陶の歴史を持つ景徳鎮に工場を作り、その翌年には、新商品「パピヨン バタフライ」がNew York International Gift Fairに華人独自開発の商品として初めてBest Gift Awardを受賞しました。2004年にはイギリスのThe Guild of Specialist Gift RetailersのThe Best for Ceramic Gift賞を受賞。続く2005年には台湾本土において国家産品イメージ賞(現台湾精品賞)を受賞しました。その後、イギリスのインテリアブランド会社のCEO・Andy Milligan氏からBest Global Brandsに認定されました。
これらの海外における受賞歴の数々によってFRANZは海外から国内への経営戦略に成功したともいえ、その後はフランクフルトのAmbiente展に初めて華人会社として永久展示権を授与され、パリのMaison et Objet展にも台湾メーカーとして初めて出展するなどめざましい発展を遂げました。しかし、どれほど国際市場で有名になっても、陳氏は伝統的な製陶技術に関して一度も妥協することはなく、進化する最先端技術を駆使しながら伝統製法をいかに改善するか常に考えています。

儒家「仁」の思想がFRANZの文化創意の基になっています。FRANZの創意は、時代の潮流に乗らず、金銭に執着せず、大衆にこびず、常に感動を与え続けるということを理念としています。

FRANZの発表する東洋美学を多くの欧米デザイナーが注目しています。所属する華人デザイナーに限らず、様々な国のデザイナーの目を通して、東洋文化を表現しており、特に中国と同じような長い歴史を持つフランスに関して、陳氏は特別の感情を抱いています。フランスのデザイナーとの合作はFRANZに大きな影響を与え、Bernardaud（ベルナルド）やBaccarat（バカラ）、Christofle（クリストフル）など有名ブランドにデザインを提供して共同制作する機会も得ることになりました。また、2010年にはオランダ・アムステルダムのゴッホミュージアムや、アメリカのフィラデルフィアミュージアムとのコラボレーションを実現し、新たな境地を開いています。

伝統から生まれたFRANZは、「形」「色」「質」に関して、独自の美学を持ち込み、すで伝統を超えつつあります。東洋の芸術文化の表現と優れた品質が国際基準の認定を受け、現在は56ヵ国6,000店舗を展開、世界中でFRANZの東洋美学の理念およびファッションが広がっています。受賞歴も途切れることはなく2005〜2012年において「中国陶磁器博覧会金賞」、2006年「国際連合教育科学文化機関最優秀手工芸品賞」、2011年に「台湾百件ブランド賞」と台湾経済部の「卓越創新企業賞」を受賞、2013年には経済部から「卓越中堅企業賞」を受賞しています。また、陳氏個人としても2012年には安永企業家賞「年度大賞」、そして世界有数の経済誌『フォーブス』に「ファッション華人25人」のうちの一人、2014年に台湾第一回「総統創新賞」に選ばれるなど数々の賞を受賞しています。
陳氏は現在、数十年のブランド開発の経験を経て、文化産業に革新をもたらすため、起業家に才能を生かせる舞台を提供することが必要だと考えています。中国と台湾の文化創意産業の顧問として、2006年に『アジア文化創意産業協会』(CCIA)を創立し、2010年にはアメリカフィラデルフィア美術館の世界的に有名なアーティストの作品を輸入し、自ら展示会を開いています。

各業界から陳氏への認可

1、2014年に台湾第一回「フォーブス」総統創新賞
2、「フォーブス」誌に2012年度「世界ファション界25華人」の一人
3、2012年安永企業家「年度大賞」
4、台湾経済部の国家産業創新賞の「卓越創新企業賞」
5、台湾行政院文化創意産業推進委員
6、行政院経済部産業発展諮問委員
7、台湾行政院文化建設委員会文化諮問委員及び項目審査委員
8、台湾行政院経済建設委員会サービス業推進委員
9、財団法人情報産業研究会（Institute for Information Industry）会長
10、中国陶器興業優秀企業家
11、中国陶器興業への影響100人の1人
12、中国陶磁器協会常務理事
13、2007年「文化創意産業最優秀貢献賞」