No. 01
ヘンチェル 棒遊びをする子供
手元の棒で遊ぶ子どもの一瞬を等身大で写し取った磁器人形。ヘンチェル原型の代表作で、現代まで継続的に復刻されている。
商品詳細を見る
An Editorial · Meissen × Art Nouveau
ユリウス・コンラート・ヘンチェル(1872-1907)の子供シリーズから、現代マイセンの定番フォルムまで。
1710年、ヨーロッパで初めて硬質磁器を生み出したマイセン。それから160年後の19世紀末、ドイツ・アール・ヌーヴォー(Jugendstil/ユーゲントシュティール)の波に応答した同社は、植物的・流動的な有機曲線を磁器に取り込んでいきました。本特集は、その時代に短い生涯を遂げたモデラー・ヘンチェルの仕事を起点に、1990年代の「波の戯れホワイト」へと受け継がれる「19世紀末から現代への磁器の系譜」を辿ります。
Prologue
── 宮廷モチーフから日常へ、そして現代の有機曲線へ ──
マイセンの磁器人形といえば、長く宮廷の貴婦人や神話の女神が定番でした。その流れの中で、ユリウス・コンラート・ヘンチェル(1872-1907)が残した「子供シリーズ」は、日常の子どもの仕草を等身大で写し取った、19世紀末アール・ヌーヴォーへの応答そのものです。棒で遊ぶ手の力加減、ミルクを飲む幼児の頬の動き、猫を抱く少女の前のめりな姿勢 ── そのいずれもが、現代まで原型が伝えられ、復刻され続けています。
19世紀末のヨーロッパでは、産業革命の進行と並行して「日常」を芸術の主題に据える機運が高まっていました。ドイツの装飾芸術運動「ユーゲントシュティール」は、植物文様や流動的な曲線、そして名もなき人々の暮らしを磁器・ガラス・家具へ持ち込み、宮廷の権威から離れた美を提案します。マイセンもまた、この潮流に呼応しました。そして約100年後、1990年代に発表された「波の戯れホワイト」では、植物的・流動的な有機曲線というアール・ヌーヴォーの主要モチーフが、純白の浮彫として現代のテーブルへと結晶しています。19世紀末から現代へ ── マイセン磁器の系譜は、今も続いているのです。
Timeline
1710 ― 2026
1710
ザクセン州マイセンにて、ヨーロッパ初の硬質磁器が生まれる。ザクセン選帝侯アウグスト強王の宮廷工房として始まり、王侯貴族向けの磁器製作が国家事業として始動した。
1872
ドレスデン近郊で生まれる。後にドレスデン美術学校で彫塑を学び、世紀末の装飾芸術の機運の中でマイセンへ入所する。
1895
ミュンヘンで創刊された装飾芸術雑誌「Jugend」が、ドイツ・アール・ヌーヴォー=「ユーゲントシュティール」(直訳:若い様式)の語源となる。マイセンも同時代にユーゲント様式の磁器を発表していく。
1907
日常の子供をモチーフとしたフィギュリン群の原型を残し、主任モデラー就任の同年、35歳で他界する。原型はマイセン社内に保管され、現代まで継続的に復刻されている。
1990s
マイセンが1990年代に発表した白磁ライン。器全体に施された波(さざなみ)のレリーフは、植物的・流動的な曲線というアール・ヌーヴォーの主要モチーフを正統に継承し、現代の食卓へと橋渡しした。
現代
ヘンチェルの子供シリーズ、Jugendstil時代のユーゲント、白磁浮彫のホワイトレリーフ、そして1990年代の波の戯れホワイト ── 19世紀末アール・ヌーヴォーへの応答とその現代継承が、le-noble のテーブルに並ぶ。
The Core Story
── ヘンチェル35年の生涯と「子供シリーズ」 ──
ユリウス・コンラート・ヘンチェルは1872年、ドレスデン近郊で生まれました。ドレスデン美術学校で彫塑を学んだ後、マイセン磁器製作所のモデリング部門に入所します。19世紀末のドイツでは、印象派・象徴主義・そしてユーゲントシュティールが装飾芸術の前提を更新しつつあり、マイセンの宮廷モチーフ中心の様式もまた、新しい主題を求めていた時期でした。
ヘンチェルが選んだのは、宮廷の女神でも神話の英雄でもなく、ごく普通の子どもたちでした。棒で遊ぶ子、ミルクを飲む幼児、猫を抱く少女 ── いずれも特別な場面ではなく、街角でふと立ち止まれば目にする日常です。彼はその一瞬を、姿勢の傾きや手の力加減まで含めて等身大で写し取り、磁器人形の原型へと造形しました。
1907年、ヘンチェルはマイセン主任モデラーに就任します。しかしその同じ年、35歳の若さで他界しました。短い生涯の最後の数年間に集中して残された原型群は、その後マイセン社内に保管され、現在に至るまで継続的に復刻されています。彼が残した「日常の子供」というモチーフは、世紀末の磁器が宮廷から日常へ視点を移した転換の、最も明確な記録として残ります。
Craftsmanship
── マイセン磁器人形・浮彫テーブルウェアの手仕事 ──
専門のモデラーが粘土で原型を造形する。ヘンチェル原型はマイセン社内に保管され、現代でも参照される。
原型から部位ごとに石膏型を起こす。フィギュリンは頭部・胴体・手足など分割し、後に組み合わせる。浮彫テーブルウェアも同様に型から成形される。
素焼きと本焼きを経て、白磁の素地を得る。マイセン独自の磁土と高温焼成が、透明感のある白を生む。
創業以来の伝統技法による手描き絵付け(白磁ラインは釉薬のみで仕上げる)。釉薬と顔料の調合もマイセン社内で継承されている。
Series 01 · 1907 — Hentschel
日常の子供を磁器人形に閉じ込めた、19世紀末マイセンの代表作。
Series 02 · Jugend (歴史紹介)
ドイツ・アール・ヌーヴォー(Jugendstil)の磁器ライン。19世紀末~20世紀初頭のマイセン代表シリーズ。
「ユーゲント(Jugend)」とは、1895年にミュンヘンで創刊された装飾芸術雑誌の名であり、ここから派生した「ユーゲントシュティール(Jugendstil)」がドイツ語圏におけるアール・ヌーヴォーを指す呼称となりました。マイセンは19世紀末から20世紀初頭にかけて、植物文様や流動的な曲線をプレート・ティーカップ・ソーサーへ展開した「ユーゲント」シリーズを発表。チューリップなどの植物モチーフを器の縁から中心へと流す構成は、宮廷の権威から日常の食卓へ視点を移した、世紀末マイセンの代表的な応答の一つでした。同時代のヘンチェル子供シリーズと並び、現代マイセンの有機曲線フォルム(後述の波の戯れホワイト等)へと連なる、重要な源流のシリーズです。
Series 03 · White Relief
純白の浮彫だけで植物文様を表現する、19世紀から続く白磁の応答。
No. 04
容量1150mlのティーポット。胴体全体に植物文様の浮彫を回したシリーズ象徴作。色絵を排し、白磁の浮彫だけで植物文様を立ち上げる引き算の様式は、19世紀末アール・ヌーヴォーへの白磁による応答でもある。
商品詳細を見るSeries 04 · Wave White (Modern Heritage)
19世紀末アール・ヌーヴォーの植物的・流動的曲線を、1990年代マイセンが純白の浮彫で現代に継承。
「波の戯れ(Wellenspiel/ヴェレンシュピール)」は、マイセンが1990年代に発表した現代の白磁ラインです。器の胴やリムに施された波(さざなみ)のレリーフは、植物的・流動的な曲線というアール・ヌーヴォーの主要モチーフを正統に継承するもので、ヘンチェルらが19世紀末に磁器へ持ち込んだ「有機美学」が、約100年を経て現代の定番フォルムとして結晶しています。色絵を排し、白磁の起伏だけで光と影を生むデザインは、実用と装飾の両立を志向した世紀末アール・ヌーヴォーの理念とも重なります。ヘンチェルの子供シリーズと同じテーブルに並べたとき、本シリーズは「19世紀末 → 現代」の系譜を視覚的に閉じる存在となります。
More to Read
代表シリーズの暮らしへの取り入れ方
ヨーロッパ初の硬質磁器を生んだ職人たちの物語
1720年代「インドの華」から西洋花への様式変遷
POPULARITY RANKING
NEW FEATURE
POPULAR BRAND
BEST SELLING RANKING