No. 01
ファンシーな鳥
マイセン / マグカップ 240ml
An Editorial · Dragon East & West
同じ姿の神獣が、東洋では神として崇められ、西洋では悪として討たれてきました
龍と呼ぶか、ドラゴンと呼ぶか。同じ架空の神獣が、東洋と西洋でまったく異なる役割を担ってきました。古代中国で四霊の筆頭とされた龍と、キリスト教世界で悪の化身とされたドラゴン。この文化的対比が磁器の上で出会ったのが、18世紀前半のマイセン窯でした。4章にわたり、東西の龍が辿ってきたおよそ1300年の物語をご紹介します。
Chapter 01 · East · 東洋の龍
── 麒麟・鳳凰・霊亀とともに、古代中国から列島へ ──
古代中国の博物誌において、龍は「四霊」と呼ばれる四神獣の筆頭に置かれてきました。四霊とは龍・麒麟・鳳凰・霊亀の四柱を指し、いずれも吉祥をもたらす神獣ですが、なかでも龍は最高位とされ、歴代王朝の皇帝のシンボルとして衣装の紋様に独占的に用いられました。「五爪の龍」は皇帝のみに許され、王侯貴族はそれぞれ位階に応じて四爪、三爪と区別されたと伝えられます。鯉が滝を登りきって龍に変じるという「登龍門」の伝説は、立身出世の象徴として現代の日本語にも残っています。古代から龍は「変化と昇華」を体現する神獣として、人々の生活と精神文化の根幹に深く根付いてきました。
南宋時代の博物誌『爾雅翼』には、龍の姿について「三停九似」という記述が知られています。三停とは頭から肩、肩から腰、腰から尾の三段がほぼ等分であること。九似とは「角は鹿、頭は駱駝、眼は鬼、身体は蛇、腹は蜃、背中の鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛」と九つの動物の特徴を備えるという形態描写です。喉元には「逆鱗」と呼ばれる逆向きに生えた鱗が一枚あり、これに触れた者は龍の怒りを買うという伝承から、目上の人の怒りを買うことを「逆鱗に触れる」と表現する慣用句が今も使われています。十二支では5番目に「辰」として名を連ね、十二支で唯一の架空の生物となっています。日本にも龍神信仰が伝わり、雨を呼び農耕の実りをもたらす水の神として、各地の神社や寺院で祀られてきました。
東洋の龍が「皇帝のみが纏える最高位の神獣」として千年以上にわたり信仰されてきた事実は、同じ姿の生物が西洋では「英雄に退治される悪役」とされた対比をいっそう際立たせると、編集部では見ています。
Chapter 02 · West · 西洋のドラゴン
── キリスト教的「悪」の象徴、聖ゲオルギウスの伝説 ──
西洋におけるドラゴンの位置づけを決定づけたのは、新約聖書『ヨハネの黙示録』12章の記述でした。そこには「天には大きなしるしが現れた。…見よ、大きな赤い竜がいた。七つの頭と十の角を持ち、頭には七つの冠をかぶっていた」と描かれ、天使ミカエルがこの竜と戦って退治する場面が記されます。キリスト教がローマ帝国の国教となり中世ヨーロッパへ普及するにつれ、ドラゴンは「悪魔・サタンの化身」として人々の想像力のなかに定着していきました。形態的にも東洋の龍とは大きく異なり、太い四肢と巨大な翼を持ち、口から炎を吐き、洞窟で財宝を守るという特徴的な姿が、写本や聖堂のレリーフのなかで繰り返し描かれてきました。
中世ヨーロッパで広く語られた聖ゲオルギウス伝説では、ローマ帝国時代の騎士ゲオルギウスが村を襲うドラゴンを倒し、人々をキリスト教へ導いたと伝えられます。この物語は11~13世紀の十字軍期に騎士道精神の象徴として欧州全土に広まり、聖ゲオルギウスは英国・グルジア・カタルーニャ等の守護聖人として今日まで篤い信仰を集めています。同時期の英雄譚『ニーベルンゲンの歌』のジークフリート、古英語の叙事詩『ベーオウルフ』など、ヨーロッパ各地の英雄文学の多くで、英雄が龍を倒すことが英雄性を証明する通過儀礼として描かれてきました。「龍を退治する英雄」という物語構造は、西洋文化に深く根付いた一つの定型として後世のファンタジー文学へも受け継がれていきます。
東洋の龍と西洋のドラゴンが、形態的にも文化的役割においても対照的であることは、19世紀以降の比較神話学で多く取り上げられてきたテーマと、編集部では見ています。同じ「龍形の生物」を信仰の中心に据えるか、退治すべき悪として描くかという差異は、東西の自然観・宗教観の根本的な違いを映し出しています。
Chapter 03 · 1710-1730s · マイセンと東西の龍
── アウグスト強王のコレクション熱と、ドラゴン紋様の誕生 ──
1710年、ヨハン・フリードリヒ・ベットガーがヨーロッパ初の硬質磁器を完成させ、ドイツ・ザクセン州のマイセン窯が産声を上げました。設立を後押ししたザクセン選帝侯アウグスト強王は、当時すでに2万点を超えるとされる景徳鎮磁器や有田焼を蒐集していた東洋磁器愛好家であり、マイセン窯創設の目的の一つは「東洋磁器に並ぶ欧州磁器を自国で確立する」ことにありました。当然、初期マイセンの装飾図案は東洋磁器の意匠から多くを学ぶことになります。なかでも18世紀前半のマイセンの中国趣味装飾が確立したヘロルト期(Johann Gregorius Höroldt, 1720~30年代)に、東洋の磁器に描かれていた龍意匠を欧州の感覚で再解釈した「ドラゴン紋様」が成立したとされます。東洋では神として崇められた龍が、ヨーロッパ宮廷の食卓を飾る装飾文様へと姿を変えた瞬間でした。
マイセンのドラゴン紋様の特徴は、中国磁器の龍の力強い線描を基盤としつつ、欧州磁器の白磁の地に色彩豊かに描き出される点にあります。マイスター(職人)による一筆一筆の手描き絵付けによって完成され、ブラック・グリーン・ブルー・レッド・イエロー・パープルなど多彩な色違い展開が、18世紀から今日に至るまで継承されてきました。およそ300年にわたり受け継がれてきたこの古典紋様は、マイセン窯を代表する装飾の一つとして、各時代のマイスターたちの手によって描き続けられています。
マイセン ドラゴン紋様は、東洋の吉祥神獣を西洋の磁器技術で再現した点で、東西文化の融合を象徴する一例と、編集部では見ています。退治される悪役として描かれてきた西洋の地で、東洋から渡来した龍意匠が宮廷の食卓を飾る装飾として定着していった経緯は、磁器という工芸が文化の橋渡し役を担った好例だと言えます。
Chapter 04 · Now · 現代の継承
── マイセンとヘレンド、二つの名窯による東西文化交流 ──
18世紀前半のマイセン窯がドラゴン紋様を生み出した時代から、欧州磁器における「東洋への憧れ」は途切れることなく続いてきました。マイセンが鳥や花卉といった東洋的モチーフを磁器の上で再解釈し続けたのと同じく、19世紀ハンガリーで創業したヘレンド窯は「シノワズリ(中国趣味)」と呼ばれる中国モチーフの一群を独自の手描き技術で展開してきました。本章では、龍そのものの古典シリーズではなく、東洋への憧れがどのように欧州磁器の意匠として結実してきたかを、現在ル・ノーブルが取り扱う代表的なシリーズでご紹介します。
マイセンの「ファンシーな鳥」は、東洋磁器に描かれてきた花鳥文様を欧州磁器が独自に解釈した一例です。中国・日本の磁器に描かれてきた花と鳥の組み合わせを、マイセンのマイスターが一筆一筆の手描きで現代に伝えています。ヘレンドの「シノワズリ(中国趣味)」シリーズは、マンダリン(中国官吏)を模したカップ形状と、上海・西安・春慶など中国の地名や行事に着想を得た色彩展開が特徴です。マンダリンの帽子と髷を意匠化した特徴的なカップは、18~19世紀ヨーロッパの中国趣味ブームをハンガリーの磁器技術で結実させた一群と位置づけられます。
The Selection · 欧州磁器が描いた東洋への憧れ
花鳥文様を磁器に宿したマイセン、中国趣味を磁器で体現したヘレンド。二つの欧州名窯が描いた東洋への憧れをご覧ください。
東洋の龍は古代中国で「四霊」の筆頭とされ、皇帝のシンボルであり、雨を呼んで農耕の実りをもたらす神獣です。一方、西洋のドラゴンは新約聖書ヨハネの黙示録の記述やキリスト教の影響から悪の象徴として描かれ、英雄に退治される存在として中世以降の文学に定着しました。形態的にも東洋龍は細長い蛇体に鱗と爪を持ち空を泳ぎますが、西洋ドラゴンは太い四肢と巨大な翼を持ち炎を吐く姿で描かれます。
18世紀前半、マイセン窯の中国趣味装飾が確立したヘロルト期(1720~30年代)にドラゴン紋様が成立したとされています。ザクセン選帝侯アウグスト強王のコレクション熱に応えるかたちで、マイセン窯が中国磁器の龍意匠をヨーロッパ磁器に翻案したのが始まりです。以来およそ300年、マイセンを代表する古典紋様として手描き絵付けで受け継がれています。
東洋磁器に描かれてきた花鳥文様を、マイセン窯が独自に解釈したシリーズです。中国・日本の磁器に描かれてきた花と鳥の組み合わせを、マイセンのマイスターによる一筆一筆の手描きで現代に伝えています。
龍は十二支の5番目「辰(たつ)」です。十二支のなかで龍だけが架空の生物でありながら名を連ねており、古代中国の時代から龍が人々の生活と精神文化に深く根付いてきた神獣であることの証とされています。
シノワズリとは18~19世紀のヨーロッパで流行した「中国趣味」のことです。ヘレンドが中国磁器の意匠をハンガリーの磁器技術で再解釈した一連のシリーズが「シノワズリ(中国趣味)」シリーズで、上海・西安・春慶・ポワッソンなど中国の地名や行事に着想を得た多彩な色彩展開があります。マンダリン(中国官吏)形のカップ・ソーサーは東西融合を象徴するアイテムです。
「ドラゴン」は18世紀前半(ヘロルト期)に成立したマイセンの古典紋様です。「メロディドラゴン」は、その古典の龍意匠を現代マイセンが新しい線描と色彩で再解釈したシリーズで、より流麗で軽やかな表現が特徴です。伝統と現代の両方をお楽しみいただけます。
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マイセン ファンシーな鳥、ヘレンド シノワズリ、そしてマイセン メロディドラゴン。東洋の文様・中国趣味を欧州の名窯が磁器に昇華した作品をル・ノーブルでお届けします。
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