№ 01
古琳庵窯 染付松絵 鍋島木杯九寸鉢
伝統工芸
鍋島木杯の意匠を九寸の大鉢に展開した一品。呉須の濃淡だけで松を描き分ける染付の妙が、白磁の余白の中に静かに立ち上がります。
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An Editorial · 400 Years of Arita
1616年、泉山の白磁鉱が日本磁器を生んだ。
1616年、佐賀県有田町・泉山。朝鮮人陶工 李参平が日本で初めて白磁の原料を発見し、天狗谷窯で焼成しました。それから400年。有田焼は伊万里港を出てヨーロッパ王侯の食卓を彩り、柿右衛門様式は18世紀のマイセンに模倣され、1879年には香蘭社が設立されました。本特集は、日本磁器の本流を辿る400年の系譜を、4章で読み解きます。
Prologue
── 1592-1616年、文禄・慶長の役から泉山白磁鉱発見まで ──
日本の器の歴史は、長く土器と陶器の時代が続いていました。白く硬質で透光性のある「磁器」は、中国・景徳鎮や朝鮮半島の独占技術で、日本の窯では焼成できなかったのです。それを変える出来事が、16世紀末から17世紀初頭に起こります。文禄・慶長の役(1592-1598年)で、九州各地の大名は朝鮮半島から多くの陶工を連れ帰りました。彼らが日本の土と火を読み解くなかで、磁器の原料となる白磁鉱は、ついに九州の地で見出されることになります。
本特集は、その白磁鉱の発見から始まる有田焼400年の歩みを、四つの章に分けて辿ります。1616年の天狗谷窯から、17世紀後半の伊万里港経由の欧州輸出、初代酒井田柿右衛門の赤絵技法、そして1879年の香蘭社設立を経て、2016年の創業400年と現代の継承窯へ。技法・産業・文化の三層を一本の系譜として読むことができる、稀有なテーマです。
Chapter 01 · 1616 ― Origin
── 1616年、泉山白磁鉱の発見 ──
朝鮮半島から渡来した陶工のなかに、後に「李参平(リ・サンペイ)」「金ヶ江三兵衛(かながえ さんべえ)」の名で記録される人物がいました。彼は鍋島藩領内を歩き、磁器の原料となる陶石を探し続けます。1616年、ついに佐賀県有田町の東部・泉山(いずみやま)で良質な白磁鉱を発見し、同年中に天狗谷窯(てんぐだにがま)を開いて日本初の白磁焼成に成功しました。これが、有田焼 ── そして日本磁器の始まりです。原料に乏しい当時、白磁鉱の発見そのものが革命的でした。鉄分の少ない清浄な陶石を高温で焼くことで、はじめて中国・朝鮮と同等の白さと硬さが得られたのです。
初期の有田焼は、中国・景徳鎮の青花磁器を範としつつ、有田の白磁鉱の特性を活かして独自に発展しました。釉下に呉須(コバルト顔料)で文様を描く染付(そめつけ)が中心で、山水・草花・人物文などが描かれます。江戸前期の17世紀前半に確立されたこの染付技法は、後の鍋島焼や色絵磁器の基礎となり、四百年経った今日もなお、有田の窯元によって継承されています。
Chapter 02 · 17C ― Imari · Kinrande
── 17世紀後半、オールドイマリの輸出 ──
17世紀後半、有田焼は新たな段階に入ります。焼成地・有田から積み出し港である伊万里(いまり)へ運ばれた磁器は、オランダ東インド会社(VOC)の交易船に積まれ、はるばるヨーロッパへと渡りました。ヨーロッパでは焼成地ではなく積み出し港の名で「Imari(イマリ)」と呼ばれ、王侯貴族の宮殿を飾る蒐集品として高く評価されます。その代表が、染付の青に赤絵と金彩を加えた華麗な絵付け様式 ── 金襴手(きんらんで)です。深い瑠璃色の地に金で唐草や花文を描き出す装飾性は、当時の欧州磁器にない豪奢さで、ザクセン選帝侯アウグスト強王の日本宮殿コレクションをはじめ、各国の王侯が競って蒐集したと伝えられます。
「オールド・イマリ(Old Imari)」と呼ばれるこの様式は、その後の欧州磁器に決定的な影響を与えました。1710年に創業したドイツ・マイセンは、初期から日本磁器を熱心に学び、伊万里様式や柿右衛門様式を模倣した作品群を生み出します。同様の試みはフランスのシャンティイ、シャンソー、イギリスのチェルシーやウースターなどにも広がり、18世紀の欧州磁器デザインは、有田焼を一つの大きな参照源として発展しました。日本の港町の名が、海を渡って磁器様式の代名詞となった ── これは産業史としても文化史としても、稀有な現象です。
Chapter 03 · 17C ― Kakiemon
── 初代酒井田柿右衛門と乳白色素地 ──
17世紀半ば、有田の地でもうひとつの革命が起こります。初代酒井田柿右衛門(さかいだ かきえもん/1596-1666)が、釉の上に絵付けする「赤絵(あかえ)」技法を確立しました。素地は乳白色 ── 後に「濁手(にごしで)」と呼ばれる、わずかに温かみを帯びた白さです。この素地に、紅葉のような朱赤・黄・緑・青を用いて、花鳥や草花を控えめに描く。中国磁器の特徴であった「画面を埋め尽くす全面装飾」とは対照的に、柿右衛門様式は意図的な余白を残し、文様を絵画として独立させました。これは中国磁器の写しから一歩抜け出し、日本独自の絵画的様式が成立した瞬間として、磁器史に明確に刻まれています。
柿右衛門様式の影響力は、海を越えてすぐに表れました。マイセンは1730年代から柿右衛門写しを盛んに制作し、ロイヤル・コペンハーゲン、シャンティイ、チェルシーなど欧州の主要窯がこれに追随します。彼らが学んだのは、技法だけではありません。「余白を恐れず、文様を絵として描く」という美意識そのものが、欧州磁器デザインの方向性を変えていきました。柿右衛門家は十五代続く窯元として現在も有田町に存続し、その精神は他の有田の窯元にも広く継承されています。
Chapter 04 · 1879 ― Koransha · Modern Arita
── 明治期の万博出展と国際的名声 ──
明治維新(1868年)を経て、日本の磁器産業は再び国際市場と接続します。1879年(明治12年)、深川栄左衛門らによって佐賀県有田で「香蘭社(こうらんしゃ)」が設立されました。香蘭社は明治期の万博に出展し、有田焼の精緻な絵付け技術を世界に再び示します。江戸期のオールド・イマリ以来、約二世紀ぶりに国際舞台に立った有田焼は、伝統技法と工業生産を両立する近代磁器メーカーとしての地歩を築きました。以来140年以上にわたり、香蘭社は伊万里・金襴手の系譜を継ぐ「ルリ花丸紋」、近代以降の代表柄「オーキッドレース」など、多彩なシリーズを展開しています。
並走するもう一つの現代有田焼が、伝統染付・色絵を継ぐ古琳庵窯(こりんあんがま)です。鍋島藩窯の流れを汲む鍋島様式の染付・色絵を、現代の食卓と贈答の文脈に再構成する試みは、有田焼の幅広い継承を象徴します。2016年、有田焼は創業400年を迎えました。中堅から若手の陶工までを含めた多層の窯元が、染付・色絵・金襴手・柿右衛門様式といった四百年の技法を、現代の暮らしに翻訳し続けています。本特集の末尾に紹介する古琳庵窯・香蘭社の現代作例は、その物語の最新ページにあたります。
The Selection
── 古琳庵窯・香蘭社 ──
Brand 01 · Colinan
鍋島藩窯の系譜を継ぐ、現代の伝統染付窯。
Brand 02 · Koransha
明治期から続く、伝統と近代を両立する有田焼の名門。
№ 03
プラチナで蘭の花を描く香蘭社の代表シリーズ。普段使いに馴染む15.5cmのパン皿は、和洋いずれの食卓にも違和感なく溶け込みます。
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パン皿と揃えて使いやすい19.5cmのケーキ皿。プラチナの蘭が白磁の上で控えめに光り、紅茶やコーヒー時間に落ち着いた華やぎを添えます。
商品ページへ№ 05
深い瑠璃に金彩で葡萄文を描いた、金襴手の現代継承作。Chapter 2 で触れたオールド・イマリの華やかな装飾性を、現代の小ぶりなカップに凝縮しています。
商品ページへ№ 06
深い瑠璃地に金で花丸紋を配した、伊万里・金襴手の系譜を継ぐ銘々皿。5枚揃のしつらえは茶席・来客の場面に格を添える贈答の定番です。
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