ブラックジャスパーに“ダンシングアワー”レリーフ(浮き彫り)を施した、18世紀のウェッジウッドを代表するボウル。ジャスパーのカメオデザインとして最も有名なこの図案は18世紀後半ヨーロッパで陶器や銀器などのデザイナー兼彫刻家としても活躍したジョン・フラックスマン(1755-1826)によって創られました。ギリシャ神話のホーライ(季節と秩序の女神たち)を表現したデザインは、かつてのローマボルゲーゼ宮殿にあった暖炉の装飾から想を得ています。現在その原点となった暖炉の一部は、ウェッジウッドのコレクションで名高い、ポートサンライトにあるレディー・リーバー・アート・ギャラリーに所蔵されています。プレステージアイテムを始めとして、現在でも様々なアイテムに使用されているウェッジウッドの新古典主義を代表するデザインです。
1774年ジョサイア・ウェッジウッドはさらに、新しい素材の陶磁器を完成させます。当時のウェッジウッドは既に、クィーンズウェアやブラックバサルトなどの成功によって、もはや揺るぎない名声を勝ち得ていました。しかしながら、ジョサイアの陶芸に対する意欲と情熱は自ら過去の名声に甘んずることを許さず、新たな製品の創作に取り組むことを決意します。そして4年もの間、日夜繰り返されたおよそ1万回にも及ぶ途方もないトライアルの末、遂にウェッジウッドの代名詞ともいえる『ジャスパーウエア』を完成させることに成功します。
ジャスパーウエアが発明された18世紀のヨーロッパでは、エジプトやボンベイ遺跡の大規模な発掘により、古典・古代への復興熱が高まっていました。古代の美意識が注目され絵画、建築、インテリアに古代ギリシャや、ローマを規範とした古代風のスタイルが取り入れられ「ネオクラシズム(新古典主義)」と呼ばれる新たな美術様式が確立された時代です。ジョサイアはトップアーティストと契約し、ジャスパーウェアの形状やレリーフの装飾にも古代美術からインスピレーションを得たデザインを採用しました。
室内装飾用の花瓶、マントルピース、飾り額、ジュエリーなど様々な作品が制作され、新古典主義の流行とともに、その美の表現に最適な素材となったジャスパーウエアは芸術的に高い完成度をともなった陶磁器として、瞬く間に一世を風靡します。その勢いは大陸の諸窯業を衰退させるほどであったと伝えられています。
ジョサイアは自身が行った実験の陶片や、失敗作品にシークレットコードをつけ、膨大な実験記録を残しています。装飾や焼成にあたりどこまでも確実に制御し、そのデータを記録、再現することによって、複製品の製作を可能にしました。さらに、エンジンターン(電動ろくろ)など最先端の技術を積極的に導入することにより、これまで手工業であった陶芸を、大量生産可能な近代的工業へと発展させることに、大きく貢献します。
ウェッジウッドが世の中に送り出した画期的な陶磁器は、常にその時代の人々に新鮮な驚きを与えてきました。『いつの時代も新しい。』創始者ジョサイア・ウェッジウッドの革新の精神は陶芸における不変の最高技術とともに、ウェッジウッド社の伝統として受け継がれ、創業より250年以上経った今にいたるまで人々を魅了する名品を創出し続けています。