
マルガリータ ─ 雛菊の連続文様
名はイタリア語でマーガレット、すなわち雛菊を指します。可憐な白い花弁が連なる連続文様は、ジノリの絵付け師たちが幾度も筆を運んで仕上げた素朴な意匠。豪奢な宮廷柄とは対照的に、日常の食卓に春の野を呼び込む控えめな美しさが特徴です。
An Editorial · GINORI1735 × 290 Years
メディチ家の宮廷から現代の食卓まで、290年続くイタリア磁器の至宝。
1735年、トスカーナ大公国の侯爵カルロ・ジノリが、フィレンツェ近郊のドッチァ村に磁器工房を開きました。1710年にドイツ・マイセンで生まれた硬質磁器の技術を、わずか25年後にイタリアで開花させた先駆けです。1896年にミラノの陶磁器メーカー、リチャード社と合併し「リチャード ジノリ」となり、2013年にはグッチ・グループの傘下に。2020年に「GINORI1735」へと社名を改めた現在も、ドッチァの工房ではベッキオホワイト(1740年代)をはじめとする11柄の古典意匠が手作業で焼かれ続けています。
Prologue
── マイセンに次ぐ欧州磁器の先駆け、ドッチァの工房 ──
1710年、ドイツ・マイセンでヨーロッパ初の硬質磁器が焼成されました。それまで王侯貴族たちが東インド会社経由で買い求めていた中国・日本の白磁を、ヨーロッパでも作れるようになった出来事です。その25年後の1735年、トスカーナ大公国の侯爵カルロ・ジノリが、フィレンツェ近郊のドッチァ村に磁器工房を開きます。マイセンに次ぐ、欧州磁器の先駆けでした。
ジノリ家はメディチ家の枝に連なる名門貴族で、カルロ・ジノリ侯爵自身も啓蒙時代のイタリア知識階級に属していました。彼はドイツから職人を招き、自領の粘土と釉薬を研究させ、トスカーナ地方の伝統的な意匠と欧州磁器の技術を融合させていきます。ジノリ工房の磁器はやがてハプスブルク家、ナポレオン、ヴィクトリア女王ら欧州各国の宮廷から指名を受けるようになりました。1896年、ジノリ社はミラノを拠点とする陶磁器メーカー、ジュリオ・リチャード社と合併し、社名は「リチャード ジノリ」に。2013年にグッチ・グループの傘下に入り、2020年に「GINORI1735」へと再び名を改めた現在も、創業の地ドッチァで磁器づくりが続けられています。本特集では、290年のあいだに生まれた11柄の意匠を巡り、現代の食卓に届く代表柄「ベッキオホワイト」を5点でご紹介します。
Timeline
1735 ― 2026
1710
ザクセン選帝侯アウグスト強王の支援のもと、マイセンでヨーロッパ初の硬質磁器が焼成される。以後、欧州各地で磁器工房開窯の動きが広がる。
1735
トスカーナ大公国の侯爵カルロ・ジノリが、フィレンツェ近郊のドッチァ村に磁器工房を創設。マイセン誕生からわずか25年後、イタリア磁器の歴史が始まる。
1740s
創業まもないジノリ工房で、純白の磁器に浮彫装飾を施した「ベッキオ」シリーズが生まれる。以後280年以上、現在に至るまで製造が続けられる代表柄となる。
1745
ベッキオに続き、優美なバロック調の装飾リムを持つ「アンティコ」が発表される。白磁本来の美しさを生かす二つの古典柄が、ジノリ工房の核となる。
1770
トスカーナの陽光に育まれた果実を写実的に描いた「イタリアンフルーツ」が登場。イタリア磁器の代名詞となるカラーパターンの起点。
1865
フィレンツェがイタリア統一国家の首都となる短い時代に、フィレンツェの紋章「百合(ジリオ)」を主題にした「フィレンツェ」柄が着想を得る。
1896
ミラノを拠点とする陶磁器メーカー、ジュリオ・リチャード社と合併し、社名は「リチャード ジノリ」となる。生産拠点もミラノ郊外まで拡大した。
1965
ドッチァに館蔵8,000点を超えるリチャード・ジノリ美術館が開館。後年「ミュージオクラシコ」シリーズの源泉となる。
1985
開窯250周年を機に、18世紀の名作「グランデューカ」を復刻。マリア・テレジアに納められたとされる優美な牡丹意匠が現代に蘇る。
2013
フィレンツェ発祥のラグジュアリーグループ、グッチの傘下に入り、デザイン部門と生産体制が大幅に刷新される。古典柄の現代的再解釈が進む。
2020
創業年「1735」を社名に冠した「GINORI1735」へとリブランディング。290年の歴史を強調しつつ、現代のラグジュアリーブランドとして再定義される。
現代
創業の地ドッチァの工房では、現在も職人がベッキオホワイトの浮彫装飾を手作業で仕上げている。ル・ノーブルでは、ベッキオホワイトをはじめとする現役シリーズをお選びいただける。
Core Story
── ジノリ工房が語り継ぐ古典柄群と現代の代表柄 ──
ドッチァの工房は、1735年の創業から現代までに数多くのパターンを生み出してきました。なかでも「物語を持つ柄」として語り継がれてきた古典群と、近代以降にブランドを象徴することになった代表柄を合わせた11柄を、本章では順にご紹介します。マルガリータの素朴な雛菊から、ミュージオクラシコの美術館収蔵意匠まで、290年の時間が一枚の白磁の上にどのように積み重なってきたかを辿る読み物の章です。

名はイタリア語でマーガレット、すなわち雛菊を指します。可憐な白い花弁が連なる連続文様は、ジノリの絵付け師たちが幾度も筆を運んで仕上げた素朴な意匠。豪奢な宮廷柄とは対照的に、日常の食卓に春の野を呼び込む控えめな美しさが特徴です。

18世紀イタリアでは、雄鶏は豊穣と祝祭の象徴として民俗芸術に幾度も描かれてきました。深紅の鶏冠と尾羽が白磁の上に弾むこの意匠は、トスカーナの祝祭文化を磁器の中に閉じ込めた一枚。今もなおイタリア家庭の祝いの食卓を飾る柄として愛され続けています。

1770年頃に製造が始まった、ジノリ屈指の伝統柄です。オレンジ、レモン、葡萄、無花果といったイタリア半島の果実を写実的に描いた構図は、当時のヨーロッパで隆盛したボタニカル絵画の影響を色濃く受けています。地中海の太陽に育まれた果実の艶やかさが、白磁を彩りみずみずしさを添えてくれます。

「王女に捧げるバラ」を意匠化した華やかな柄です。19世紀ヨーロッパの宮廷文化のなかで、薔薇は気品と祝福の象徴として食卓を飾ってきました。柔らかなピンクの花束が淡いリムを縁取り、ジノリの白磁が湛えるエレガンスをひときわ際立たせる構成となっています。

プリンセスローズの華やかさに対し、こちらは時を経た古道具のような落ち着きをまとっています。色褪せたピンクと金彩を抑えめに重ね、19世紀後半に欧州で広がった「古典回帰」のムードを磁器に写し取った一柄です。蒐集家の応接間に置かれる骨董の薔薇画を、テーブルに移し替えたような味わいがあります。

イタリア語で「大公妃」を意味するこの柄は、18世紀にオーストリア女王マリア・テレジアのために制作されたという由緒を持っています。当時フィレンツェ貴族のあいだで流行した日本の着物の柄を取り入れ、優美な牡丹を主題に据えました。開窯250周年を機に復刻された、欧州の格調と東洋美の融合の象徴と言えるシリーズです。

名はミラノのオペラの殿堂「スカラ座」に由来します。19世紀後半、ヴェルディやプッチーニが活躍したオペラ全盛期、舞台美術が放った絢爛と装飾性を磁器に転写したかのような意匠。豪奢な縁飾りと舞台幕を思わせる赤金の意匠が、晩餐の食卓に劇場的な緊張感を運んできてくれます。

1865年から1870年にかけ、フィレンツェがイタリア統一の首都であった短い時代に着想を得た意匠です。フィレンツェの紋章である百合の花(ジリオ)をモチーフに、ルネサンスの黄金分割を引いた構図で描かれています。ジノリの工房がフィレンツェ近郊ドッチァにあることを思えば、これは郷土への讃歌と言えるでしょう。

サボイア家は1861年にイタリアを統一し1946年まで続いた王朝です。この柄は王家の宮廷に納められた高級食器のひとつで、ピエモンテの森に実る木の実とベリーを写実的に描き出しています。王家の祝宴で銀器とともに供された格式の高さが、いまも図柄の細部に息づいています。

イタリア語で「紫紅色」を意味するこの柄は、古代ローマ皇帝のみが纏うことを許された貝紫(ティリアンパープル)に名の由来をもちます。赤紫の濃淡を白磁に重ね、皇帝の威光を食卓に降ろしたかのような格調の高さを湛えています。控えめでありながら、卓を瞬時に格上げしてくれる一柄です。

「ミュージオ=美術館、クラシコ=古典」。1965年にドッチァに開館したMuseo Ginori(リチャード・ジノリ美術館)所蔵の18世紀古典意匠を、現代の食器として復刻したシリーズです。8,000点を超える館蔵品から選び抜かれた図柄は、過去の至宝を現代の食卓に呼び戻す試みそのものと言えます。
Series 01 · Vecchio White
創業まもないジノリ工房で誕生した、白磁本来の美しさを生かす浮彫装飾の代表柄。
「ベッキオ(Vecchio)」はイタリア語で「古い」を意味します。シリーズ名の通り、1740年代にカルロ・ジノリ侯爵の工房で生まれた、ジノリ工房最古のパターンのひとつです。11柄が華やかな色絵で物語を紡ぐ一方、ベッキオホワイトは色絵や金彩を一切用いず、白磁の縁にバロック調の浮彫装飾を施すという潔い意匠で、純白の磁器が持つ素材本来の美しさを最大限に引き出します。
浮彫装飾は職人が一点ずつ型に粘土を押し込み、削り出していく手仕事です。リムには連続する花蔓と貝殻のモチーフが立体的に立ち上がり、影が落ちることで純白の表情に深みが生まれます。装飾性で魅せる10柄群とは対照的に、ベッキオホワイトは食卓に置く料理そのものを引き立てる器として、280年以上にわたり製造が続けられてきました。フォーマルな場面はもちろん、現代の和食やイタリア料理の盛り付けにも自然に溶け込む、タイムレスな白磁です。本特集では、ティーカップ&ソーサーからプレート、フルーツソーサーまで、ル・ノーブルでお選びいただける5点をご紹介します。
No. 01
シリーズを象徴するティーカップ&ソーサー。容量240mlは紅茶に適したサイズで、リムの浮彫装飾が午後のお茶の時間に静かな品格を添える。
商品詳細を見るNo. 02
容量120mlのコーヒーカップ&ソーサー。デミタス寄りの小ぶりなサイズで、エスプレッソやカプチーノなどイタリア由来のコーヒー文化に寄り添う一品。
商品詳細を見るNo. 03
直径26cmのディナープレート。パスタやメイン料理の主役皿として活躍するサイズで、リムの浮彫装飾が料理の彩りを静かに引き立てる。
商品詳細を見るNo. 04
直径17cmの取り皿サイズ。パン皿、デザート皿、取り分け皿として用途が広く、26cmプレートと組み合わせることで食卓全体に統一感が生まれる。
商品詳細を見るNo. 05
直径15cmのフルーツソーサー。果物やジェラート、小皿料理を盛るのに適したサイズで、リムの浮彫が小さな器ながら確かな存在感を持たせる。
商品詳細を見るHeritage Series
── ベッキオホワイトに並ぶ、ジノリの古典と意匠の系譜 ──
「アンティコ(Antico)」はイタリア語で「古い/古典の」を意味します。ベッキオホワイトの誕生からわずか5年後の1745年に発表されたアンティコホワイトは、ベッキオと並ぶジノリ工房の最古の代表柄のひとつです。バロック調の装飾性をより強めた優美な浮彫リムを特徴とし、白磁本来の品格を引き立てる古典の美を体現します。
280年以上にわたり製造が続けられている長寿シリーズで、フォーマルなテーブルウェアとして欧州貴族たちに長く愛されてきました。現代のテーブルにも違和感なく溶け込み、ベッキオホワイトと並べることで、白磁の表現の幅を実感できるシリーズです。
「オリエンテイタリアーノ(Oriente Italiano)」は、東洋的な装飾モチーフをイタリア磁器の意匠に取り込んだシリーズです。2013年のグッチ・グループ傘下入り以降、現代的に再解釈された代表柄として知られ、植物文様や鳥獣を主題にした華やかなパターンを多色で展開します。
古典柄のベッキオホワイト・アンティコホワイトとは対照的に、色彩と装飾の密度で魅せる現代のシリーズ。ジノリ工房が18世紀から続けてきた「古典と現代意匠の両輪」という伝統を、21世紀のラグジュアリーブランドとして体現しています。
FAQ
1735年、トスカーナ大公国の侯爵カルロ・ジノリがフィレンツェ近郊のドッチァ村に磁器工房を開いたのが始まりです。1710年のマイセン誕生からわずか25年後、欧州磁器の先駆けとなりました。1896年にミラノのリチャード社と合併して「リチャード ジノリ」となり、2020年に「GINORI1735」へ改称されました。290年の歴史を持つイタリア磁器ブランドです。
1740年代に誕生したジノリ工房最古のシリーズのひとつで、純白の磁器に立体的な浮彫装飾を施した代表柄です。色絵や金彩を一切用いず、白磁本来の素材美と職人の手仕事による浮彫の影で構成されます。発表から280年以上にわたり製造が続けられているロングセラーで、現代のテーブルにもタイムレスに馴染みます。
1735年創業のジノリ工房は、1896年にミラノのジュリオ・リチャード社と合併し「リチャード ジノリ(Richard Ginori)」となりました。その後、2013年にグッチ・グループ傘下に入り、2020年に創業年を冠した「GINORI1735」へとリブランディングされています。同一の窯元・同一の伝統が継承された、社名変更による別名です。
本特集で紹介する11柄のうち、ル・ノーブルで現在取扱中のシリーズは、ベッキオホワイト・アンティコホワイト・イタリアンフルーツ・グランデューカの4柄です。残りのマルガリータ、レッドコック、プリンセスローズ、アンティックローズ、スカラ、フィレンツェ、サボイア家 森の果実、ポルポラ、ミュージオクラシコの7柄については、290年史の読み物として掲載しています。
白磁本体のベッキオホワイトなど浮彫主体のシリーズは、基本的に食洗機の使用が可能とされます。ただし色絵や金彩を用いた装飾性の高いシリーズ(オリエンテイタリアーノ等)は、長く美しい状態でお使いいただくため手洗いが推奨されます。各商品の取扱表示と仕様欄をご確認ください。
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