この作品はかつてその国営工場の主任デザイナーであったヴィオラ女史によって手がけられました。親日家でもあったヴィオラ女史は、浮世絵に見せられ、「浮世絵を何とかガラス上に留めることはできないか?」 と想いを募らせ、得意のカメオ技法(ガレがよく用いた技法で、色被せガラスにアシッドエッチング(酸彫り)が施される)を駆使して制作に取り組み始めます。
着想段階で、この色被せガラスから柄を削りだしていく工程が、浮世絵の版画の色重ねと逆の工程であり最も適した制作方法であると確信。実現に向けて1年にも渡り何度も試作品が作られました。
カメオ技法では、まず素材である3層〜4層もの色被せガラスが吹きガラス技法によって作られます。次に、タールで真っ黒にベースを塗り固め、その上から原画を模写するようにタールを削りながら絵を描いていきます。酸に浸けることでタールを除いた部分が腐食され削られます。その削られた部分が模様になり、タールが塗られた部分は残ります。描いては酸に浸しという作業を何十回と繰り返すことで下地の異なる色のガラスがだんだんと現れ、柄に奥行きが生まれ、光を当てた時には色のグラデーション、立体感、生き生きとした臨場感が生まれるのです。最初ベースの外見はまだ黒い状態でも、原画を描くアーティストには、色被せガラスがどのような色の出方をするのか手に取るように見えているのです。ゆえに、カメオ技法とは、絵を描く才能もさることながら、作品全体の構成力、色被せガラスについても熟知していなければできない仕事なのです。
2次元の版画絵を3次元のガラスベースという立体の素材に一点一点手描きされるので、絵柄の接合部分には最も苦労され、何度も試作が繰り返された後、オリジナルの浮世絵を壊さない絵柄が完成しました。
残念ながら、類まれな絵画技術と情熱を持ったヴィオラ女史は2004年に亡くなり、このコレクションを引き継ぎ作れる技術を持った職人は他にいなくなってしまいました。これらの遺作ともいえる作品群は、まさに世界にひとつの貴重な逸品といえます。
コード付の電球を中に入れて頂いたり、ベースの後ろに照明を置いて頂きますと絵柄の濃淡が浮かび上がりさらに趣きが増し、インテリアとしても和・洋を問わずお使い頂けます。ぜひ、この2度と作ることのできない浮世絵とガレのコラボレーションをお楽しみください。